カエルの楽園

「三戒」はナパージュを護ることなどできなかった・・・。日本の現実を直視するきっかけに、お勧めしたい一冊です。

カエルの楽園

 本書を読んだのは2年ほど前、図書館で借りたものでした。
 その後文庫本が出たので、今回購入して再度読みました。

 櫻井よしこさんは解説の終わりに「もしこのまま改憲ができなければ、日々高まる中国や北朝鮮の脅威に対して、日本は国民の命と安全を守ることが困難となるでしょう。その行きつく先の答えが『カエルの楽園』に書かれています。  ツチガエルたちの楽園は、最後にどうなったでしょうか。一匹一匹のカエルたちはどうなったでしょうか。それは皆様お一人お一人が、本書を読んで確認して下さい。」「本書を通して日本の現実を知って下さる人たちが増えつづけていくことを願っています。」とお書きです。  

 百田尚樹さんの「カエルの楽園」 を紹介するために、櫻井よしこさんの解説をコピペさせていただきます。
 興味が湧いて読んでみたいと思ったら、是非とも本書を手にしていただければと思います。

カエルの楽園 百田尚樹

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カエルの楽園 (新潮文庫) [ 百田 尚樹 ]
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解説

 百田尚樹さんの『カエルの楽園』が文庫本になって、もっと多くの人々に広く読まれることになりました。解説を書く光栄をいただき、今、執筆しています。日付は2017年7月4日。そうです、東京都議会議員選挙の直後です。書き進みながら私は『カエルの楽園』と、都議選での安倍自民党大敗という事象をつなぐ共通の要因の存在を感じています。
 そのことを説明する前に、何よりも先に強調したいことがあります。『カエルの楽園』は誰でも気楽に読める寓話の形をとりながら、日本国の本質を鋭く抉り出した名著であるということです。
 読み始めればすぐに、本書は現代の日本の社会、そして安全保障をテーマにした物語だということがわかります。寓話の謎解きをするのは無粋であることは承知していますが、この本を手に取られた十代の人たちのために、敢えて言わずもがなのことを述べさせていただきます。
 楽園のナパージュは日本国であり、その住人のツチガエルは私たち日本人です(ナパージュの綴りは「Napaj」、ひっくり返すと「Japan」になります)。狂言回しである二匹のアマガエルは難民です。物語はアマガエルの目を通して語られる、ナパージュとツチガエルたちの運命です。
 ナパージュを脅かすウシガエルは中国(人)、ナパージュに君臨する鷲のスチームボートはアメリカ合衆国、パンニバル三兄弟は陸海空の自衛隊でしょうか。楽園に住みつくヌマガエルの正体は皆さんがお考え下さい。
 ツチガエルたちが何よりも大切に守っている「三戒」は、日本国憲法の前文(諸国民の公正と信義に信頼して云々 ―― )と九条二項であり、彼らがいつも歌っている「謝りソング」は、戦後の自虐思想そのものです(これはGHQの「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」という占領政策によって、日本人に植え付けられた思想です)。「三戒」と「謝りソング」のせいで、ツチガエルたちは他力本願の無責任主義と夢見る平和主義に陥っています。平和でありさえすれば、紛争や戦争さえなければ、奴隷の平和であってもよいと心から思い込んでいます。
 そんな彼らを長年にわたって洗脳し続けているデイブレイクというツチガエルは、ナパージュの陰の権力者ですが、このネーミングセンスは秀逸です。デイブレイクを直訳すると「夜明け」です。これが何を意味するかは申し上げることもないでしょう。穿った見方をすると、「デイ」「ブレイク」は「日」「壊す」とも読めます。
 毎日のように南の崖をよじのぼってナパージュにやってくるウシガエルの脅威を認めず、「三戒」を死守しようとする元老のガルディアンは皺だらけの醜いツチガエルです。お腹の皺を数えるとちゃんと9本あります。9本、つまり、9条なのですね。百田さんの仕込みのなんとユーモアに溢れていることでしょう。
 一日中、歌や踊りでツチガエルたちを楽しませるお祭り広場は、「テレビ」でしょうか。そこで場をとりしきるマイクというカエルは、報道番組に出てくるコメンテーターを象徴しているように見えます。物語の後半、ハスの沼で演説するカエルたちは、いずれも現存する有名人を譬えていますが、ここでは敢えてその謎解きはいたしません。
 こうして楽しみながら、時にはクスクス笑いながら読んでいく内に、やがて、背中が寒くなるようなナパージュ国の実態が目の前に表れます。デイブレイクをはじめとするカエルたちは、物語の中で、奇妙でおかしな主張を繰り返します。読者はそれを読みながら、「なんと無茶苦茶なことを言うカエルだろう」と笑うでしょうが、ふと、その主張は私たちが日頃、新聞やテレビで普通に見聞きしているセリフであることに気付き、ぞっとすることになるでしょう。
 物語の中に、南の崖をよじ登ってきたウシガエルに不安を抱くツチガエルたちに対し、デイブレイクやガルディアンは実に気味の悪い言葉を吐いています。
 ●「ウシガエルは虫を追っていて、うっかりと南の草むらに入ってきただけかもしれない。あるいは草むらが珍しくて、見学に来ただけかもしれない」
●「こんなところに我々が集まっていては、緊張を高めるだけです」
●「とことん話し合えば、必ず明るい未来が開ける」
 ところが驚いたことに、この本が出された4ヵ月後の2016年6月9日(単行本の刊行は2月)に、中国軍艦が初めて尖閣沖の接続水域に侵入した時、朝日新聞は社説に次のような文章を書きました。
●「今回の行動に習近平政権の意思がどこまで働いていたのか。(中略)軍艦の行動が意図的なものか、偶発的だったのかも不明だ」
●「事実関係がわからないまま不信が募れば、さらなる緊張を招きかねない」
●「対話のなかで、お互いの意図を理解し、誤解による危機の拡大を防ぐ」
 奇妙なことにデイブレイクたちの言葉とまったく同じです。これは偶然の一致でしょうか。それとも百田さんは、中国軍艦の侵入と朝日新聞の社説を予言していたのでしょうか。
 百田さんは最後まで、残酷なまでに、書き尽くします。楽しませつつ、物語を運び、さらに展開させ、最後に、真実の中の真実を読者の心のまん中にストーンと落としてみせます。ラストで、あるカエルが口にするセリフは多くの読者を戦慄させるかもしれません。
 何より怖ろしいことは、この寓話が、現在、私たちの目の前で、少しずつですが、現実になりつつあることです。本書は日本の未来を見通した、誠に名著であるというしかありません。
 もちろんこの寓話は別の読み方もできます。「沖縄の現状を表わしている」という読み方もできますし、また「思考を放棄した国家の運命」、あるいは「肥大化したメディアの恐怖」という象徴的な寓話と見ることも可能です。そうした様々な読み方が可能であるというのも優れた寓話であることの証です。
 冒頭で都議会議員選挙と『カエルの楽園』は深くつながっていると書きました。
 体も小さく備えもしてこなかったツチガエルたちは、自分自身も、いわんや自分たちの国であるナパージュも自力で守ることができません。侵略してくる体の大きなウシガエルの前で、彼らは絶対的平和主義と絶対的非暴力を最高の価値とする「カエルの三戒」を守り通そうとします。でも、国を守り、人々の命を守る術も力もないのは、とても不安です。ツチガエルたちの中から、自分たちが食べ尽くされ、祖国が消滅するかもしれないというこれ以上ない危機に直面して、絶対平和主義の原則である「三戒」を見直そうという意見が、遂に出てくるのは、自然なことです。
 でも、そのとき、強力な反対意見が声高に叫ばれます。絶対平和主義ガエルたちです。彼らは強固かつ頑固に、建前論の美しい言葉を並べたてます。「信じる心」、「平和の尊び」、「争いのない世界」 ―― なんと正しく美しい言葉でしょうか。民衆はこういう美しい言葉に酔うのが大好きです。大半の人たちが美しい漠然とした言葉に酔い痴れているとき、彼らを酔わせているピカピカの建前論に立ち向かうのは、存外難しいものです。
 果せる哉、絶対平和主義見直し派のカエルたちは多勢に無勢で押され続けます。
 命を守るためには防衛しなければならない、そのための力を持つべきだという当然の常識を提言するカエルたちに、絶対平和主義のデイブレイクが啖呵を切ります。
 「ただですむと思っているのか。お前など葬り去るのは簡単なんだぞ!」
 絶対平和主義を美しい言葉で唱えるカエルたちは、実際は恐ろしい程暴力的なのです。正論を唱えたカエルたちはこうして叩き出されていきます。
 安倍晋三首相は、今回の都議選を前に散々な批判を浴びました。「朝日新聞」をはじめ、およそ新聞という新聞、テレビ局のニュース番組、数々のワイドショーで文字どおり嵐のような批判を浴びました。確かに自民党議員の酷い失態はありました。誰でも自民党は一体どうしたのかと、疑問を抱いてしまったことでしょう。そのことを勘案しても安倍首相に対する執拗な批判と非難は尋常ならざるものでした。
 なぜ、選挙前に、恰もタイミングをはかったように、自民党問題が暴かれ、安倍首相批判が繰り返されるのか。そうした批判の中で、なぜ前川喜平氏という文部科学省の前事務次官が「正義の味方」のような位置づけになるのか、メディアはもっと冷静な報道をする必要があるのではないか。そう考えている内にはっと気づきました。10年前も同じような現象があったことに。
 第一次安倍政権の末期の状況と現在のそれは似ていると思います。約10年前、安倍首相は多くの法案を通そうと急ぎました。防衛庁を「省」に格上げし、教育基本法を改正し、憲法改正に必要な国民投票法を成立させました。
 安倍首相が力を振り絞って、国民投票法を成立させたときのことを私は鮮明に覚えています。この法律がなければ、憲法改正はできません。国会の衆参各議院で三分の二以上の賛成を得て憲法改正が発議されたあと、国民投票で半分以上の国民の賛成を勝ち取らなければ改正できないからです。
 しかし、日本には国民投票を実施するための法律がなかったのです。法律がなければ国民投票はできません。ですから首相は、支持率も下がりメディアの批判が高まる中で、本当に力を振り絞って国民投票法を成立させたのです。
 安倍首相は憲法改正の法的基盤にぽっかりと空いていた司法上の穴を埋めました。それに反発したのが「朝日新聞」をはじめとする憲法改正に否定的なメディアと野党でした。轟轟たる非難が渦巻きました。安倍政権がよからぬことを企んでいるかのようなわけ知り顔の、しかし、なんの根拠もない解説が、ワイドショーの人々によって展開されました。
 無論、当時も自民党は問題を抱えていました。松岡利勝農林水産大臣の自殺があり、後任の赤城徳彦大臣の「絆創膏事件」もありました。
 メディアは連日こうしたことを書きたて、ワイドショーはまたもや多くのタレントや有名人による井戸端会議のような解説を流し続けました。世間は自民党批判、安倍批判一色となりヽ安倍自民党は参議院議員選挙に大敗しました。その後首相が辞任したのは周知のとおりです。
 今回も、選挙前に安倍首相は憲法改正につながる重要な動きを見せています。5月3日には「読売新聞」との単独インタビューで憲法改正に具体的に踏み込みました。ズバリ、核心の9条に触れたのです。
 自民党総裁としての首相の提案は、9条の1項と2項をそのままにしておいて、自衛隊の存在を憲法に書き込むという絶妙な曲球でした。
 極く簡単に言えば1項は平和主義を強調し、侵略戦争はしないと誓う内容です。2項はどんな戦力も持たず、そのうえ、「国の交戦権」を認めないという内容です。世界に類例のない、異常と言ってよい絶対平和主義です。ツチガエルたちが毎日歌うように繰り返している「カエルの三戒」のうちの二つ、「カエルと争うな」「争うための力を持つな」です。
 公明党はツチガエルたちの絶対平和主義と同じような価値観を掲げています。彼らは2項を後生大事にしていますから、2項をそのまま保持するという首相提案には反対できません。こうして首相は、憲法改正に必ずしも前向きではない公明党を極めて巧みに改正の輪の中に入れたのです。日本維新も、教育の無償化を掲げる首相の改憲案に反対する理由はありません。
 よく考え抜いた戦略的な9条改正のボールを投げた首相の思惑は当たりました。俄かに改正論議が活発化したのです。「朝日新聞」をはじめとする左派系メディアはどれ程驚き、怒り心頭に達したことでしょうか。彼らは俄然安倍批判を強め、自民党批判を加速しました。
 投票日が近づくにつれ、安倍自民党に対する批判の嵐が強まった背景には、個々の問題を越えた左派系メディアの決意、つまり、憲法改正を目指し、そこに近づきつつある安倍首相は絶対に許さないという彼らの怒りと恐れがあったと、私は感じています。繰り返しますが、自民党の側にもたしかに問題はあります。けれど、メディアの安倍批判は余りにも一方的でバランスを欠いていると言わざるを得ません。斯くして都議選は自民党の大敗に終わりました。
 10年前と今年、本当によく似た構図です。これが、7月2日の真実だったと、私は確信しています。この二つの出来事はたまたま起こった似た事件ではありません。憲法改正を、何としても阻もうとする勢力が、10年ぶりに総力を結集した結果にほかなりません。
 もしこのまま改憲ができなければ、日々高まる中国や北朝鮮の脅威に対して、日本は国民の命と安全を守ることが困難となるでしょう。その行きつく先の答えが『カエルの楽園』に書かれています。
 ツチガエルたちの楽園は、最後にどうなったでしょうか。一匹一匹のカエルたちはどうなったでしょうか。それは皆様お一人お一人が、本書を読んで確認して下さい。
 百田さんもカエルになって本書に登場しています。絶対平和主義ガエルの前に立ち塞がって祖国を守ろうとする百田さんガエルの運命も、どうぞ本書を読んで、皆様御自身で確認して下さいね。
 私もまた日本に必要な憲法改正を実現するために、百田さんガエルを応援し、戦い続けるつもりです。
 本書を通して日本の現実を知って下さる人たちが増えつづけていくことを願っています。
            (2017年7月、ジャーナリスト)

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