未来年表 人口減少危機論のウソ

少子高齢化による人口減少を恐れる必要はない。けっして「移民を入れよう」なんて考えてはいけない。

未来年表 人口減少危機論のウソ

「日本は少子高齢化・人口減少が進み労働力不足になる。それに伴って地方は疲弊し年金制度も破綻し、日本は滅んでしまう。そうならないために外国人労働者や移民を入れるべきだ。」という主張があります。
それを聞くと「そうかもしれない」などと思ってしまいがちですが、本書を読むとそういうロジックが間違いだということが分かります。
日本の未来は暗いわけではなく、移民を入れる必要はないのです。
移民受け入れを目論む人々に騙されないようにしましょう。 

 高橋洋一さんの「未来年表 人口減少危機論のウソ」 を紹介するために、以下に目次や目を留めた項目をコピペさせていただきます。
 興味が湧いて、他も読んでみたいと思ったら、本書を手にしていただければと思います。

未来年表 人口減少危機論のウソ 高橋洋一

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未来年表 人口減少危機論のウソ [ 高橋 洋一 ]
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目次

 日本の未来年表

  序章 「人口減少危機論=人口増加幸福論」の罪
人口減少が危機だと叫ぶ人の正体 12  / 解明できていない出生率低下の要因 16  / 地方の事例は都市部には役立たず 20  / 子どもを「コスト」と考える親はいない 22  / 出生率増加に効果的な人工妊娠中絶の禁止 29  / 海外では割合が高い婚外子 32  / 世間のムードで変わる出生数 37  / 政府は人が減ることに危機感を抱いてはいない 38

 第1章 人口問題の本質
「価格」と「物価」を混同する自称・経済評論家たち 42  / GDPが減っても生活には関係ない 49  / 人口増減率と経済成長率は無相関 53  / 「デフレ人口原因論」と「デフレ金融政策原因論」の大きな違い 56  / 物価上昇率は通貨量と相関関係にある 59  / 人口推計は5年おきに再調整すればいい 64

 第2章 移民政策の是非
日本を真似したいアメリカの移民政策 72  / 移民を水際ではじくための移民法 77  / 労働力としての外国人は必要なくなる 81  / 中国人による高額医療の不正利用が問題に 88  / 移民の拒否は人権侵害ではない 92  / 単純労働はAIに置き換わる 95

 第3章 年金と社会保障の真実
年金制度上の3つの問題点 100  / 重大な欠陥があった厚生年金基金 102  / 利権の温床であるGPIFは不要 111  / 消えた年金記録問題から生まれた「ねんきん定期便」 114  / 年金に「消費増税」は必要ない 122  / 誤解が広まった方が好都合な人々 127  / お金があるなら民間保険は入らなくていい 131  / 人口減少では社会保障は破綻しない 134

 第4章 誤解だらけの雇用政策批判
定年延長は天下り廃止と雇用創出につながる 138  / 「賃金が上がらない」という誤解 141  / 雇用改善は金融政策が要因 146  / 人手不足解消は女性の動き次第 152  / 国と企業で役割を明確に区別すべき 154  / 就職率アップは金融政策のおかげ 158  / 誤解が蔓延する高プロ 162  / 副業解禁の本当の意味 165  / AI化が雇用環境にもたらすもの 168  / 複数の言語が操れれば世界は広がる 172  / 人口減少で職を失うのは努力をしない人たち 174

 第5章 税源で決まる地方分権
国民が税の使い方を選べる「ふるさと納税」 180  / 日本では居住の選択権がある 184  / 中央と地方の区分けは単なる役割の違い 187  / 地方分権は税源移譲がカギ 190  / 地方に税源移譲すべき税目とは 193  / 政治闘争でしかシステムは変えられない 196  / 岩盤規制を崩すための国家戦略特区 199  / パチンコも依存症対策の対象に 201

 終 章 人口減少時代に我々がすべきこと
財政危機なんかのウソを気にするな 208  / 今から老後格差に備えよう 214  / いざという時はフリーランスが強い 216


日本の未来年表


年代
 懸念されている出来事
→本書の見解

2023年
 労働力人口が5年間で300万人も減り、日本経済が大打撃を受ける
→ 適切な金融政策で非労働力人口が労働力人口に転じるし、効率化を図るための技術革新でむしろ生産性が向上する

2025年
 人口減少は日本経済の中心である東京にも容赦なく襲いかかる
→ 束京在住者にしてみれば、東京に人が集まってくるのは迷惑でしかないから、ちょうどいい

2027年
 ガンや心臓病、白血病などのために使われる輸血用の血液が不足する
→ 人口が減ればいずれは輸血対象者も減るわけなのでそれほど影響はない

2030年
 地方の生産年齢人口が激減し、地方税収が落ち込む
→ 支出サイドも減る。また、現在は国税となっている消費税を地方に税源移譲すればいい

2033年
 空き家が約2000万戸になり、老朽マンションがスラム化する
→ 空き家を潰すか他に活用すればいいし、すでに空き家活用のビジネスは生まれている

2035年
 男性の3人に1人、女性の5人に1人が生涯未婚になり、少子化が進む
→ 婚姻届を出していない男女間の子どもである「婚外子」を制度的に認めれば、出生数も上がる

2039年
 国内死亡者数が年間約168万人に達し、東京を中心に火葬場不足に陥る
→ 火葬場不足でニーズがあるならそれはビジネスチャンスなので、単純に火葬場を増やせばいい

2040年
 自治体の半数が消滅の危機に陥り、行政運営に支障が出る
→ 困るのはポストを失う公務員だけ。むしろ自治体を合併させた方が行政上効率化が図れる

2050年
 団塊ジュニア世代が75歳以上となるため、社会保障制度が崩壊の危機に直面する
→ 年金は保険と同じ仕組みである。保険数理さえ知っていれば、年金が崩壊しないことは明らか

2060年
 大量の外国人が押し寄せ、合法的に日本国内に“外国の領土”ができてしまう
→ 人手不足は外国人労働力ではなくAIで補うべき

2065年
 総人口が約8800万人、2.5人に1人が高齢者となり、日本は貧しい国になる
→ 人口が減少しても、GDP成長率への影響は最大0.7%程度だし、生活水準といった家計の話とは別の問題


人口減少が危機だと叫ぶ人の正体 P12

 日本の行く末を論じる上で、巷で騒がれているのが「少子高齢化で人口減少時代に突入するから何かと大変」という話題だ。国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の人口は、2065年に約8800万人まで減少する一方で、高齢者の割合は4割近くに上昇すると推計されている。
 この推計に乗っかって、新聞、書籍、経済誌、ネット記事に至るまで、人口減少時代に起こるであろう、ありとあらゆる危機の事象予測とそれに対する処方箋が考察されている。まるで、人口増加こそが幸福をもたらすかのような風潮だ。
 その火に油を注いだのが、2017年6月に発刊された河合雅司氏の著書『未来の年表』(講談社現代新書)だ。これが45万部を超える大ベストセラーとなり、類似したムック本が複数出版されるなど、世間の耳目を引いている。
 とはいっても、実はこの「人口減少危機論=人口増加幸福論」を支持する“世間”とは、主に地方公共団体の関係者だと筆者は見ている。人口が減り続けたら、最も困るのは彼らだからだ。
 というのも、その地域の人口が減れば当然、いずれは行政規模の適正化のため、市町村を合併しなければならない。民間企業なら地方の支店を減らすくらいで済むが、地方公共団体はそうはいかない。
 日本では過去3回、自治体が大合併した歴史がある。日本には1888年(明治21年)時点で、自然集落の町単位で7万以上もの自治体があったが、翌1889年の「明治の大合併」によって、1万5859の市町に再編された。
 戦後も市町村合併は進み、「昭和の大合併」「平成の大合併」を経て、2014年(平成26年)の合併を最後に全国自治体数は1718で止まっている。政府は、もともと自治体数を1000にすることを目標に掲げていたから、さらに合併が進むかもしれない。
 このように過去を振り返ると、人口増加時代にあっても自治体の数は減っている。そこには行政の効率化という大きなメリットがあったからだ。したがって、人口減少で地方自治体が消滅するという相関関係は必ずしも成立しないことが分かる。
 自治体が合併すれば、2つの役場が1つで済むわけだから、課長や係長といったポストも1つずつ失うことになるだろう。あるいは将来的にリストラで職場そのものを失うかもしれない。事実、ピークの1994年には約328万人もいた地方公務員の数は、その後減少を続け、2017年には約274万人と50万人以上減った。
 そこで、地方役人らは何とかして糊口をしのごうと、「地域に人口を増やそう」と主張しまくる。これが、自己保身的な危機感から人口減少危機論を支持する“世間”の正体だ。
 日本は地方公務員が減ったとはいっても、まだ約274万人いて、その家族も含めれば、一世帯当たり4人と仮定しても1000万人近くの関係者がいることになる。天下りした元公務員なども含めれば、どれくらいの数になるか。
 その他にも、人口減少で危機を煽る人がいる。これは、世間で言うコメンテーターだろう。何でも人口減少が原因と言っておけば済む。後で本書でも触れるが、ちょっと前にも、デフレは人口減少が理由だと煽る本が売れた。アペノミクスになってから、異次元金融緩和で十分なインフレ率ではないが、かつてのマイナスではなくなった。
 2014年の消費増税で物価の上がりは抑えられてしまった。もし消費増税していなかったら、今頃はデフレ脱却宣言という状態だっただろう。実際、2014年の消費増税当時には、インフレ率が1.5%程度まで高くなっていたが、消費増税で消費需要が減退して、インフレ率はプラスであるが低迷している。
 デフレに限らず、何でも人口減少のためと言っておけば、誰も傷がつかないので、これはいい方便になる。人口減少は実際に起こっていることなので、それと因果関係はなくとも、同時進行している社会の諸問題と関係付けて説明されると、一般の人を騙しやすいのだ。人口減少を叫び危機感を煽る人は、こういった人々である。


人口推計は5年おきに再調整すればいい P64

 人口減少の危機を煽る人は、何かの意図があって煽っている。「人口減少=日本の危機」という構図が、古き時代の人間をちょっとだけ驚かせるのにうってつけの材料なのは、たしかに間違いない。
 序章で述べたが、これまでの政府の出生率推計を当たらないモノとして揶揄する図表は多数ある。たしかに、デタラメで酷い推計であったが、2002年以降の推計はあまり外れていない。この意味では、人口減少は「想定内」である。
 人口減少危機論に対して、―つだけ真面目に答えるとすれば、減少のスピードが「想定外」に速くなるといった不測の現象があれば、おそらく困る人が出てくるということだろう。
 しかし、果たしてそれは、1923年に発生し、10万人以上の死者を出したとされる、あの関東大震災をはるかに超えるような不慮の大災害なのか。はたまた、約310万人の日本人が犠牲になったとされる、第2次世界大戦のような世界を巻き込んだ大戦争なのか。
 そんなものは、これからどうなるかなんて誰にも分かるはずがない。
 仮に、予想外の人口変動があった時に、大変な事態に陥るのは社会保障制度くらいだろう。
 社会保障とは、国家が全国民に最低の生活水準の確保で生存権を保護するため、国民所得の再分配機能を利用する政策だ。1961年に国民皆保険、国民皆年金が達成されて、全国民を対象とした総合的な社会保障の基盤ができたという歴史がある。
 現行の社会保障制度は、医療、年金、雇用、災害補償、介護の社会保険の他、児童手当、 公的扶助、社会福祉、公衆衛生、戦争犠牲者援護などから構成される。その制度設計の基礎となるデータは、少し先の人口の増減を予測しながら計算していく。
 例えば年金は、65歳になった、障がい者になった、死亡したといった「保険事故」に備えて保険料を支払い、その保険事故が起きた際に年金を受け取るという、まさに保険システムそのものだ。だが、この基本的なことすら勘違いしている人が多い。
 人口の減少は社会保障制度の崩壊にはならない。なぜなら、保険料を支払う人が減れば、その分だけ給付額も減るように自動調整されるからだ。保険事故の事由が、ガンなのか、長生きなのかというだけで、民間の生命保険(死亡保険)と仕組みは何ら変わらない。 「そんなことを言い出したら、人口の減少が民間保険の危機を招くことにもなり得る」という人もいるが、これが保険の仕組みであり、無意味な議論だ。
 また、やがて年金制度が崩壊し、年金がもらえなくなってしまうなどと勘違いしている人が意外と多いことにも驚く。  この年金の勘違い問題については、第3章で改めて詳しく解説したい。以下ではまず、社会保障制度の中でも医療・介護について話をする。
 医療・介護サービスを受ける時、その費用は個人支出(自己負担)と公的支出(社会保障支出)で支払う。この2つを足した総額が、いわゆる医療・介護給付費(単に医療費とも)で、その推計には国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口などのデータが加味されている。
 同研究所の推計によれば、2040年頃には高齢者数がピークを迎え、2065年には人口が約8800万人に減ると予測されている。国はそうした各種推計に基づき、医療費が2018年度の約50兆円から、2040年度には最大約94兆円に増えると推計している。その推計が、社会保障制度を考える際の議論の材料になる。
 つまり総人口数は、あくまで制度設計をするためのものさしでしかない。人口が減ったからといって、ただちに社会保障制度が崩壊するといった類の問題ではないのだ。
 人口減少率さえ予測できていれば、ある程度は先が読める。それなりの保険収入に見合った制度設計をするしかないというだけの話に過ぎない。
 人口が把握できる範囲では、日本の歴史を振り返ってみても、これまで予想外のことは起きていない。「そもそも人口データがウソだった」などとうそぶき、「政府が人口統計を改ざんして人口の急減を隠している」と批判する人もいるが、死亡者数などは現実に起こる現象数と完全に一致するはずがない。―件ごとのレベルで完全に把握できるわけがないと皆が分かっているから、その批判も大した問題ではない。
 しかも、人口推計は5年おきに調査するため、何十年も先まで読めなくても、5年おきに再調整していけば何の問題もないのだ。しかも、最近は政府の推計が当たっており、「想定内」の出来事だ。
 だから、人口減少によってどんな問題が起きるのかといった類の質問は、その人がきちんとした証拠もなく、ずっと「人口減少は大問題だ」と思い込んでいるだけなのが透けて見える。「まあ人口は減るだろうが、出生率もこれからほとんど横ばいだろうから、社会保障制度の設計には支障は何もない」というのが筆者の答えだ。
 10年先、20年先のことなんて誰も読めない。だいたい、携帯電話の世界でスマートフォンが主流になるなんて、20年前に誰が読めていただろうか。だから、人口減少が数十年後にもたらす影響などに怯える必要はない。せいぜい身の回りで起こるであろう5年先のことが読めていれば大丈夫だ。
 こういったことから、移民政策などによって無理やり人口を増やす必要はないと筆者は 考えている。その理由について、第2章でさらに詳しく見ていこう。


中国人による高額医療の不正利用が問題に P88

 移民の問題になると、リアリズムだとかリベラリズムだとか、とかく思想論に陥りがちだ。筆者もよく誤解されるが、そんな基準で物事を考えてはいない。必要な政策を考える基準は、社会コストに見合うかどうかだけだと割り切っている。
 そして移民にかかる社会コストは、労働力不足の損失よりもはるかに大きいことはもはや明白だ。移民のせいで社会保障費がぼう大になったり、職を失ったりすることを懸念して、国民が移民受け入れに反対しているEU諸国の混乱の様子が、それを如実に示してくれている。
 政府が移民法を作ろうとしているのは、移民を受け入れるための制度設計ではなく、あくまでコントロールするのが目的だ。移民受け入れの話は、総務省がなし崩し的に取り組んでいるだけで、いずれは行き詰まるだろう。
 いくら政府が年間20万人受け入れるといっても、いまだにどんな法律でやるのかが曖昧模糊としているし、法務省の方針もよく分からない。とはいえ、いきなり移民法を制定するのは難しいだろうから、おそらくもう少し経って様々な社会問題が表面化してきたら、移民法を制定する方向に動いていくだろう。
 社会問題の中でも、先に挙げた生活保護受給より大きな問題が、外国人が留学生として日本に入国し、日本の高額医療を受けて母国に帰ってしまうことだ。
 例えば『週刊現代』によれば、3ヵ月の投与で465万円かかる「ハーボニー」というC型肝炎の特効薬がある。国民健康保険(国保)の医療費助成制度を使えば、治療費の自己負担は月額2万円で済むため、偽の中国人留学生かその仕組みを不正に利用しているという。
 他にも、高額なガン治療薬の「オプジーボ」(2018年ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学特別教授・本庶佑氏の研究をもとに開発)を使った治療や移植医療など、同様の例は枚挙にいとまがない。
 日本には、病院窓口での支払いが高額でも、一定額を超えれば還付される「高額療養費制度」なるものまである。外国人が高額医療を受けるため、入国から1年以内に申請すればもらえる「限度額適用認定証」をあらかじめ準備しておけば、支払いが初めから一定額に抑えられて超過分を負担しなくて済む。そこで、この格安医療を目的に、留学ビザで来日する中国人が増えているのだ。
 最近の調査では、半年以内に80万円以上の高額医療を受けたケースが1年間におよそ1600件あったという。端的に言えば、日本の医療費が食い物にされているということだ。  こうした事態を受け、厚生労働省は2018年6月、在留資格のない外国人が国保に不正加入していないかを調査する方針を固めた。
 そもそも留学ビザの場合、民間保険加入を義務付けるのが国際常識だ。もちろん家族も民間保険で対応させる。
 筆者もアメリカ留学した際に、ものすごく高い民間保険に入らされた。「保険に入らないとビザを出さない」と言われてしまうから、誰もが仕方なく入る。それが普通の国の感覚だ。こうやって、どこの国でも、自国の公的保険制度を食い荒らされるのを防止している。
 日本では民間保険に入れとは言わず、いきなり「国保に入れ」と言われる。結果、重病を患った人が学生として入国し、ある程度通院してから帰国するというパターンがかなり多いのが現実なのだ。
 加えて、東京都荒川区では国保の不正利用が疑われる事例として、「出産育児一時金」の制度が問題視されているようだ。
 国保加入者は国籍を問わず、また出産場所が国内か海外かを問わず、出産すれば一律42万円が受給できる。荒川区議会議員の小坂英二氏によれば、2017年度の出産育児一時金の支払件数は全体で264件、そのうち外国人が105件だったという。つまり約40%が外国人で、そのうち最も多いのが中国人の61件で約23%を占める。荒川区には人口比で中国籍が3.2%しかおらず、異様な数字だと評している。
 留学ビザを取得すると、日本で国保に加入する義務が発生する。それを逆手に取って、医療保険が使えるようにするのだ。在留期間の条件は、かつては1年間だったが、2012年7月から住民基本台帳法の改正に伴い、それまでの外国人登録制度が廃止され、在留期間が3ヵ月に短縮された。日本語を学びたいという理由で申請すれば、どんな高齢者でも留学ビザは取得できる。
 本当に日本は馬鹿なやり方をしていて、公的保険制度が性善説で成り立っており、入国方法が国際水準でないがためにいいとこ取りをされている。ちなみに、ビザの資格要件を緩和したのは民主党政権だ。そのあたりからも、移民の受け入れを声高に叫んでいる正体が見え見えだ。


移民の拒否は人権侵害ではない P92

 そもそも日本の出入国管理法に問題がある。ザルというか、世界のスタンダードと全く違うのだ。世間知らずの役人が考えるものだから、緩いのは仕方がない。
 例えば、法務省は2010年3月以降、留学生や技能実習生などとして入国した外国人が難民申請をした場合、申請から6ヵ月後には就労を認めていた。これが通称“難民ビザ”と呼ばれるもので、難民申請が2010年の1202人から、2017年には1万9629人まで急増してしまったのだ。
 一方で、日本には難民認定されていない偽装難民が多いとも言われているが、それもまさしく法律で何も決めていないからだ。審査が行われている間はずっと日本に居られる、という部分があまりに緩い。
 とはいえ、法務省もただ手をこまぬいているわけではない。2018年1月から審査の手順を変え、審査を待つ間の就労を制限した。そのため、同年1~6月の難民申請は5586人となり、前年同期比で2975人減って8年ぶりに減少へ転じた。この時期に難民認定されたのは22人だった。
 このように、少し運用を変更すれば無駄な作業は減る。とはいえ、仮に世界標準の法律を作ったところで、そこまで日本には難民は来ないだろう。唯一想定される危険なケースは、北朝鮮が崩壊した時にどっと難民が押し寄せることぐらいだ。
 移民の議論については、各国とも難しい状況になっている。日本でも、専門性や技術を持つ外国人労働者の受け入れは拡大を先行させるだろう。実際、建築・土木業界では、東日本大震災以降は雇用状況の改善などで人手不足が生じており、外国人労働者の受け入れは既成事実化しているところでもある。
 しかし、移住とは短期的な観光や旅行ではなく、長期にわたる居住だ。人口減少を補う目的で単純労働者の移民を受け入れる場合、雇用への影響のみならず、文化摩擦や治安悪化への懸念も強い。
 トランプ大統領の移民政策に関して、日本のマスコミはこぞって「トランプは移民を送り返せと主張する差別主義者だ」という論調だった。しかし、よくよく聞くと、トランプ大統領は何の許可もなく密入国したり、犯罪をしている不法移民の話しかしていない。逆に言えば、合法的な移民には居住権を与える余地があることを示唆しているとも受け取れる。
 日本の移民受け入れ数は、もともと経済協力開発機構(OECD)でも下から数えた方が早く、先進国では少ない方だった。最近でこそ、OECD加盟35力国の最新の外国人移住者統計(2015年)で、日本への流入者は約39万人となり、前年比約5万5000人増えて韓国を抜き4位に上昇したが、基本的に移民は受け入れないスタンスだ。
 なぜ、日本のマスコミがトランプ大統領を悪者にするのか、理解できないし恥ずかしい限りだ。
 例えば最近、新幹線で放火事件や殺人事件が起こってしまった。同様に、車内に爆弾が 持ち込まれ、テロを起こされる可能性もある。これは日本人であれ、外国人であれ、簡単にできる。東京駅から乗り込んで爆弾を置き、品川駅で降りるだけでいい。だが、外国人によるテロがまだ起きていないのは、外国人が少なくて目立ってしまうからだ。たしかに観光客は増えているが、定住ないし長期滞在はまだ少ないため、テロを起こしにくい。
 やはり、移民はいない方が国民にとっては安全だ。移民受け入れ国ではそういう不安が常につきまとっている。それを全く理解しないまま、移民を受け入れない=人権侵害と短絡的に批判するのは、移民がどのような存在か日本人が理解していない証左だろう。
 日本はこれまで、入国審査官の努力により水際で移民をはじいてきた。そういう意味では、アメリカよりもはるかに移民に対しては厳しい。トランプ大統領もそれが分かっているから、今後の移民政策を見据えて安倍首相を頼りにするのはよく分かる。一方で、ドイツのメルケル首相は移民受け入れ派だから、トランプ大統領とはそりが合わない。
 そんなドイツでも、EU域外からの不法移民による社会問題の方が大きくなって、移民政策の見直しの段階に来ている。


単純労働はAIに置き換わる P95

  筆者は少なくともお花畑のリベラル(左派)ではない。だが、コテコテのコンサバティブ(保守主義者)でもない。ただ社会コストを合理的に考えた結果、よりメリットがある方を選択しているだけだ。
 MIPEXでも、日本はヘイトがあるから順位が低いなどと言われているが、そもそもMIPEXが国際的に比較しているだけで、日本の数値が低いのは別に恥ずかしいことではなく、他国から見れば羨望なのだ。
 肉体労働などの単純労働に従事している人間は、いずれAIに取って代わられる。つまり、移民の労働場所はAIが奪っていくから、移民を無理して入れることはない。これまで日本の状況を考えてみたが、やはり移民のメリットは何かさっぱり分からない。旅行だけしてもらって定住しない方がすっきりするし、何の問題もない。
 前述の通り、政府のこれまでの目標は、毎年20万人の労働移民を増やすことだったが、ここ最近、2025年までに50万人以上受け入れる方針を表明した。しかし、それは産業界がうるさいから歩調を合わせているに過ぎない。50万人も一気に増えれば必ず社会問題が起こるから、出入国管理法を再整備し、移民法を制定する流れになっていくだろう。
 だいたい、移民を単純労働力としてしか捉えていない時点で、外国人に対してとても失礼な物言いだし、不自然な言い方だ。技能実習生もいい加減な制度だ。これも言ってしまえば、外国人を安く使えるからという理由に他ならない。
 一方で、機械による単純労働というのは全く失礼にはならない。メイドもロボットでいい。単純労働ほど機械の方が優れているし、人為的なミスも減る。これについては、第4章で改めて触れたい。
 移民受け入れの議論は、日本政府が舵を切ったふりをしているだけで、左派の主張に騙されてはいけない。移民が経済成長の源だというのは、移民の国ならそうかもしれないが、少なくとも日本はそうではない。移民が大量に来ても社会的にマイナスの方が大きいだろうし、そんなリスクを冒す必要は全くない。移民政策は人口増加、経済成長、さらには社会保障制度を支える財源増加にはあまり寄与しないと思われる。もっとも、これらに寄与する「移民」であれば、歓迎しないわけではない。


年金制度上の3つの問題点 P100

  現役世代が減れば年金制度は破綻する――。
 いまだにそんな俗論がまかり通っている。結論から言えば、人口が減少しようが、高齢化が進もうが、年金はめったなことでは破綻しない。それなのに、なぜ国民はいらぬ不安を抱くのか。
 それを理解するためにも、まずは年金制度に3つの問題点があることをざっと押さえておこう。 一つ目の問題点は、厚生年金に上乗せし、企業や業界が運用している私的年金の「厚生年金基金」だ。公的年金と私的年金という、予定利回りが異なる全く性質が違うものを同時に運用しているのが大きな問題だ。
 数学的に考えれば、この厚生年金基金が行き詰まることは明らかだった。現に、2000年代以降は解散される基金が相次いだ。筆者は数理的な問題点をその10年前に指摘し、いずれ破綻がくることを予言しており、見事的中している。特に2012年のAIJ投資顧問事件では、運用の失敗に加えて経営者たちが不正な利益を得ていたことにより運用資金が消失し、多くの厚生年金基金が解散に追い込まれた。無理な運用の結果として被害を受けるのは、基金に入っている会社員なのだ。
 2つ目の問題点は、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」の存在である。GPIFは国民年金、厚生年金の積立金を運用しており、2014年に運用資金のうち国内債券の比率を引き下げて株式投資の比率を引き上げた。
 しかし、そもそも日本の公的年金は将来入ってくる保険料を基に給付を行う「賦課方式」をとっているので、制度としてインフレヘッジ(貨幣価値下落のための対策)されている。そのため、株式運用を行う必要はないと考えるのが普通だ。諸外国の公的年金を見渡しても、地方公務員年金ならまだしも、一般国民の年金を株式で運用しているような国はほとんどない。ほとんどの国では、賦課方式がとられているので、リスクを負う株式運用の必要性がないためだ。
 本来優先すべきは、年金制度の根幹である「安心・安全」だ。運用する必要のない積立金を集めて、株式で運用するというGPIFの存在自体が不要だったのだ。
 3つ目の問題点は徴収漏れである。かつての「消えた年金記録問題」では、企業が従業員から保険料を徴収しながら、社会保険庁(社保庁)に納付していないケースがかなり見られた。このようなことを許していては、真面目に納付している人が損をするばかりだ。そうした経緯から、きちんと年金が納付されているか全国民が毎年確認できるように「ねんきん定期便」が誕生した。筆者は、第1次安倍政権時代にこの制度の創設に大きく関わった。
 これら3つの問題点について、以下の項から深く掘り下げていきたい。


年金に「消費増税」は必要ない P122

 厚生年金基金、GPIF、徴収漏れ、これら3つの問題が明るみに出たことで、年金財政の危機が囁かれることになったわけだが、繰り返し言うように年金制度は破綻しない。
 政府は5年に1回、「財政検証」を行い、人口や経済の実績を織り込んで公的年金財政の健全性を検証している。名目成長率など、検証時の前提条件となる想定数字の見積もりが甘いと批判されることがよくあるが、それは「年金」の問題ではなく「マクロ経済政策」の問題だ。経済政策が良ければ、年金制度もうまく回っていく。
 2008年のリーマン・ショツク直後、政権の舵取りが自民党から民主党へと変わったが、民主党は金融政策に疎かったため、インフレ目標の設定などは当時なされなかった。これでは批判を受けるのも仕方がない。
 一方、アペノミクスの金融政策では、結果として失業率が下がって雇用が増えた。これは非常に重要なことだ。若者が職に就けなければ、年金保険料の支払いが減り、将来を見通せないからだ。
 公的年金の保険料納付はすべての国民に義務付けられているが、現実には所得が低くて払えなかったり、一部免除を受けたりしている人もいる。では、その人たちが払うはずだった分のお金は、どこから補てんするのか。その財源は税金ということになるが、そもそも税金のことを詳しく知らない人もいるだろうから、改めて簡単に説明しておこう。税金の体系が分かれば、年金に使うべき税金の種類が分かってくる。
 世の中には「○○税」と税の名のつくものが山ほどあるから、たくさんの種類があると思っている人も多いだろう。しかし、単純化して言えば、日本の個人課税には①所得税(資産税を含む)と②消費税の2つしかない。所得税は所得源泉で、個人の財布に入る段階で税金を取られる。対して、消費税は消費源泉で、財布から出る段階で税金が取られるという違いがある。
 ここで大事なのは、2つの税金の使われ方だ。
 税金は行政の業務に使われるが、国と地方では異なる役割分担がある。例えばゴミ収集業務などの基礎的業務は地方の自治体で行い、自治体でできない外交や防衛などを国が行うという「補完性原則」というものがある。
 そして、税金には受ける行政サービスに応じて払う「応益税」と、負担能力に応じて払う「応能税」という分け方がある。消費税は応益税になるため、地方自治体の基礎的業務に使われるのが適している。一方で、所得税は応能税になるため、国の業務に使われるのが適しているという大きな違いがある。
 たしかに保険の理論なら、保険料を払えない人の穴埋めに消費税を使うという選択肢は排除できない。だが、応益税と応能税という税の理論に基づけば、消費税を国の業務である年金保険料の穴埋めに使うと、たちまちロジックが破綻してしまうのだ。
 以上のことから、年金保険料の穴埋めに最も公平なのは「所得税」の一択だといえる。
 所得税は、お金持ちから厚く、そうでない人からは薄く税金を徴収することで、所得を再分配できる性質を持っている。しかも、日本では、金融所得課税が低率な分離課税(ある所得を他の種類の所得と合算せず、分離して課税すること)となっており、高額所得者の負担は低い。これを総合課税(他の所得と合算して課税すること)、あるいは高率分離課税にすると、高額所得者の負担の余地は大きくなる。一方で、消費税はすべての国民に同じ税率がかかるため、所得の再分配機能はほとんど期待できない。そのため、「社会保障のために消費税を上げなければいけない」という理屈はおかしなものだといえる。さらに言えば、日本では、先進国では例がないだろうが税務徴収当局と社会保険料徴収当局が二元化しており、税と社会保険料の一体徴収ができていない。このために、社会保険料の徴収漏れは数兆円と国会で議論されている。こういった徴収漏れを放置したままにして、消費増税というのは甚だおかしい。
 世界各国でも、年金は数理計算を用いており、消費税を社会保障に充てる国など存在しない。これは、かつての大蔵省の答申においても、「消費税を社会保障目的税としている国はない」と記されている。
 また、本来ならば、年金制度は保険料とその運用だけでまかなわれるべきものだ。よって年金の給付額を増やしたいのであれば、一にも二にも保険料を上げるのが理にかなっている。それでも足りない場合に、所得税でどう補うのかという順番で発想するのが筋だ。 「それなら法人税を年金の財源に充てるという方法があるのでは」と主張する人もいるかもしれない。しかし、それは明らかに間違っている。法人税は、そもそも所得税をきちんと取れていれば徴収する必要のない税金だからだ。しかし、日本では長年、自営業者や農林水産業者などに対する所得の捕捉率が低いため、なかなかそこまでには至らない。
 法人の所得は、最終的には従業員への給与と株主への配当になるため、給与所得と配当所得をきちんと捕捉できていれば、法人税はゼロでも全くかまわない。日本は法人税率が高いため、法人税を下げないと国際競争力が落ちるなどとよく言われるが、その主張は馬鹿馬鹿しい。
 他の国なら、給与所得も配当所得もきちんと捕捉し所得税で取れるようにして、さらに、日本のような金融所得を分離課税にして低税率にするのではなく、総合課税または高率分離課税にして、法人税を下げようというロジックが成り立っている。つまり、国際競争力うんぬんではなく、日本はそれだけ所得の捕捉率が低いから、法人税率が下がらないということが分かる。
 今後、所得の捕捉率が高まれば、自然と法人税率は下がっていくだろう。だから、いずれゼロになるかもしれない税金を、保険料の穴埋め財源としては使えない。その意味でも、法人税は年金の穴埋め財源の候補から外れる。


財政危機なんかのウソを気にするな P208

  人口減少時代に個人として何をすべきかを話す前に、ここまでの話のおさらいと補足を付け加えておこう。
 人口減少が日本社会に危機をもたらすはずもなく、地方分権さえ進めれば各自治体も創意工夫で強くなり、生き残っていける。
 まず、財務省による日本財政は危機であるとの宣伝を信じるのをやめよう。
 こうした風説のせいで、世の中には将来の社会保障のために、増税が必要と信じる人が多い。これは噴飯モノだ。その理由はなんと人口減少だという。繰り返すが人口減少が経済に与える影響と年金制度に与える影響は大したことはない。
 人口減少のGDP成長率への影響は、ここ10年ぐらいは、0.2%分程度だったし、今後50年ぐらいの期間で見ても0.7%ぐらいのマイナスに過ぎない。
 しかし、それには条件がある。今後、人口が減少して、今と同じ技術水準や人的資本だった場合は、それと同じ率でGDP成長率は低下する。この意味で両者の間には相関がある。ちょっと古い数字だが、内閣府の2003年の『経済財政白書』では、経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の1971年から2001年の人口増加率と経済成長率の関係を分析しているが、緩やかに相関関係が見られる。しかし中には、乖離している国もあり、必ずしも強い相関ではない。それは、資本ストックや技術水準、人的資本といった他の要因でGDP成長率は変わってくるからだ。
 逆に言えば、人口増減以外の要因を強化することによって人口減少に伴うGDP成長へのマイナスインパクトを弱めたりカバーできたりする。例えば、強化する要素として期待できるのがICT(情報通信技術)だ。総務省が出している「平成28年版情報通信白書」によれば、具体的な記述はないが、その図表を見ると、ベースシナリオでは、実質GDPについて14年度525兆円が20年度557兆円と年平均1%の伸びである。同図のICT成長シナリオでは、14年度525兆円か20年度590兆円と年平均2%の伸びとなっている。これを見る限り、ICT投資での実質GDPの押し上げ効果は、年率1%程度と考えられる。
 さらに、内閣府が出している『中長期の経済財政に関する試算』(2017年7月)の「経済再生ケース」では、「中長期的に経済成長率は実質2%、名目3%以上」を想定している。過去二十数年間のデフレに慣れきった目にはムリに思えるだろうが、非デフレが世界の常識であり、世界の先進国の状況を見れば、大した数字ではない。実質2%を目指すというのは、非デフレが実現した5年、10年先の話である。厳しいように思えるが、非デフレならできるはずだ。他の先進国にできて、日本だけができないという前提が筆者には理解できない。
 これらのことから、人口減少が日本経済には必ずしも悪影響でないことが分かるだろう。それは、年金制度等の社会保障についても言える。
 例えば、年金では、厳密な数理計算をして、おおむね100年間総額で「保険料」=「給付額」となるよう、つまり、破綻しないように設計されている。ただ、年金をもらっ ても生活できないほど低水準ではダメなので給付額はある程度の水準を前提にしている。
 年金制度設計は5年ごとに見直されて、厚労省が「国民年金、厚生年金の財政検証」として公表している。
 この計算は、出生率や死亡率、経済成長率、物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りなどの将来予測を前提に置いているが、給付額に一番影響を与えるのは出生率と経済成長率だ。14年の財政検証では、合計特殊出生率は高位1.60、中位1.35、低位1.12の三つのケースで計算している。
 15年の出生率は1.46だった。合計特殊出生率と給付額の関係を計算してみると、合計特殊出生率がただちに0.1%下がり、1. 45となる。それが何十年も続くと、その間、給付額は平均して7%減るという結果だ。
 経済成長率(実質)は、財政検証では、1.4%からマイナス0.4%まで8通りのシナリオ(24年度以降20~30年間の平均成長率)を出している。マイナス成長が20年も続くとは考えられないが、シナリオとしては用意してある。そこでは、成長率が0.5%減ると給付額が5%減ると計算している。
 極端な場合、出生率、経済成長率とも悪化すれば12%も減ることになる。しかし、それでも、1割程度減るというのは、その時の景気によって左右されるボーナスがちょっと減るのと同じだ。しかも、悲観シナリオでも1割減るという可能性はそれほど大きくはない。
 年金の将来不安の理由の1つは、高齢者(65歳以上)1人を支える現役世代(15~64歳=生産年齢人口)が少なくなっていくことだが、それも検証してみよう。
 内閣府のデータによれば、15年には高齢者―人に対し2.3人だったが、65年には1.3人になる。年金財政検証の結果はこうした生産年齢人口の減少を織り込んだうえでの数字になっている。しかし、ここで注意しなければならないのは、これは人数だけの数字で、年金で重要なのは金額、つまり「人数×所得」であるという点だ。つまり、現役世代の給料が増えていれば高齢者1人を支える力も増す。
 残念ながら、「失われた20年」と言われる過去20年間は名目GDPが増えず、給料も増えていない。この20年が異常で、そんな状態だったら年金だけでなく、他の制度も続かない。これまでの蓄えがあったから20年間もったのだろうけれど、同じようなことがまた20年間続くならば年金のみならずすべての制度が破綻する。
 名目GDPで平均3%ぐらいの成長を続ければ年金制度は維持できる。財政検証の8通りの成長率シナリオのうち、上から3番目の実質成長率0.9%を達成できれば、物価上昇率2%で名目3%になる。決して無茶な数字ではない。
 見通しが楽観的と言われるが、世界を見て20年間も名目経済成長率がゼロという国はない。日本の経済成長率は、世界200カ国中、1990年代、2000年代はビリのグループだ(リーマンーショツク時を除く)。先進30力国でももちろんビリだが、そこからちょっと抜け出して25位ぐらいが名目3%だ。トップクラスの名目6%、7%を目指せというなら楽観的かもしれないがビリに近くてもOKというのだからかなり控えめではないだろうか。
 経済成長については世界のビリに近い水準を達成すればいいということを考慮すれば、出生率が悪い方に転んだとしても給付額が計算結果よりもせいぜい5%減るぐらいだろう。 月の給付額が10万円とすれば、9万5000円になるか、10万5000円になるかというレベルの話だ。5%減るぐらいならば、それを破綻とは言わない。いずれにしても、デフレを完全脱却すれば、社会保障破綻に至る悲観シナリオはほぼありえない。

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