世界史で学べ! 地政学

「地政学」はその語の意味くらいしか知らなかったが、世界史に関連付けて解説してもらうと、とても身近に感じるし興味深い。

世界史で学べ! 地政学

 アメリカの衰退が進んでいる中で、戦後その保護国として生きてきたわが国は身の振り方をどうするべきなのか・・・。
  生い先長くない一国民ですが、気になります。
 憲法9条を守っていれば、米軍が撤退した後も、他国から侵攻されることなく平和に暮らせるのでしょうか?。

 百田尚樹さんの「カエルの楽園」がとても分かりやすいと思います。
 今までアメリカの保護国だったように、今度は台頭してきた中国の自治州になって平和に暮らせば良いという方もいらっしゃるようですが、それは甘い考えだと思います。

 このことについて、著者の茂木誠さんのお考えも同じだと感じました。

 茂木さんはプロローグで『世界史を正義の実現と見る「理想主義」とは真逆の立場を、「現実主義(リアリズム)」といいます。「歴史には正義も悪もない。各国はただ生存競争を続けているだけだ」という見方です。』『地政学(ジオポリティクス)は、リアリズムの一つです。』『お花畑歴史観、世界観を正すために、地政学は有効なのです。』と書いています。
 また、エピローグでは『日本が中国の保護国になることは、これまで日本が守ってきた政治的・経済的自由を失うことにほかなりません。「日中友好派」の言論人・財界人が唱える「友好」とは、北京の独裁政権との友好です。彼らは北京政府による人権抑圧に抗議することはありません。中国共産党が好んだ表現を使えば、「日中友好派は、日中両国人民の共通の敵」なのです。』と書いています。
 全く同感です!。

 茂木誠さんの「世界史で学べ! 地政学」 を紹介するために、以下に目次や目を留めた項目をコピペさせていただきます。
 興味が湧いて、他も読んでみたいと思ったら、本書を手にしていただければと思います。

世界史で学べ! 地政学 茂木誠

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目次

 プロローグ いまなぜ地政学、が必要なのか?

 第1章 アメリカ帝国の衰退は不可避なのか?
アメリカは「島」である…18/貧農たちが開拓者精神を育んだ…22/カリフォルニアヘの道…24/「シーパワー」理論を見出したマハン…26/エアパワー時代の到来…33/9・11後の世界…36/2050年にアメリカの時代は終焉を迎える…38/大国の草刈り場、中南米…41

 第2章 台頭する中国はなぜ「悪魔」に変貌したのか?
そもそも「中国」とは何か?…46/「ランドパワー帝国」中国がとった三つの政策…48/海戦が不得手だったモンゴル軍…50/北虜南倭(ほくりょなんわ)―漢民族を脅かすランドパワーとシーパワー…53/数百隻の大艦隊で南海を遠征した鄭和(ていわ)…56/ランドパワー派・毛沢東の大躍進政策…67/シーパワー派・鄧小平の改革開放政策…70/中国はシーパワー大国になれるのか?…73

 第3章 朝鮮半島-バランサーか、コウモリか?
侵略されつづけた半島国家…79/東アジアのシーパワーによる支配…85/竹島問題を引き起こした「反日大統領」李承晩…88/日韓条約を結んだ現実主義者の朴正煕…89/韓国政治を読み解くカギ?―激しい地域対立…93/中国への急接近…94/日・米による韓国切り捨て…95

 第4章 東南アジア諸国の合従連衡
なぜ東南アジアは雑多な世界なのか…101/中国vsベトナムの2000年戦争…102/ 世界を読み解くポイント チョーク・ポイン…105 ミヤンマーの華麗な寝返り…111/最後の王制国家タイの苦悩…117/南の巨人インドネシア…120 世界を読み解くポイント 華僑・華人・客家(はっか)・苦力(くーりー)…10月23 夢から覚めたフィリピン…124

 第5章 インドの台頭は世界をどう変えるのか?
「インド人」という民族は存在しない…129/チベットという防波堤…132/植民地支配が生み出したインド・ナショナリズム…135・イスラム国家パキスタンの誕生…137・インド外交の柱、非同盟中立…140・ソ連のアフガニスタン侵攻がアルカイダを生んだ…144・ 世界を読み解くポイント ガンディー・ネルー王朝…147 そして核武装が始まった…148/インドが世界最大の国家となる日…150 世界を読み解ポイント ヒンドゥー教とシク教…155

 第6章 ロシア-最強のランドパワーが持つ3つの顔
ロシアは三つの顔を持つ…157/世界最大のランドパワー…162 世界を読み解くポイント ビザンツ帝国とギリシア正教…163 海洋覇権を回復した共産主義国家…165 世界を読み解くポイント マッキンダーのランドパワー理論…167 ソ連崩壊後の混乱を制したプーチン…168/なぜロシアはウクライナを手放したくないのか…172/北方領土の解決策はあるのか…177/ロシア復活のラストチャンス…180

 第7章 拡大し過ぎたヨーロッパ―統合でよみがえる悪夢
ヨーロッパは「世界島]から突き出した半島…184/オフショア・バランシング―島国イギリスの世界戦略…190・シーパワーになりたかったフランス…192・ランドパワーとして生き残ったドイツ…193 世界を読み解くポイント グレートーゲーム(the Great Game)…195 ギリシア危機を地政学で読み解く…204/ユーロ危機は「ギリシアの嘘」から始まった…211/ドイツに対し戦時賠償問題を持ち出した…213

 第8章 永遠の火薬庫中東①
サイクス・ピコ協定にはじまる紛争 輸送ルートをめぐる争い…219/中東紛争の種は播かれた―サイクス・ピコ協定…223/英仏がアラブ諸国に対して間接支配を行なった…228/ナセルの偉業―スエズ戦争の勝利…230 世界を読み解くポイント 傀儡国家(Puppet State)…231 アラブ民族主義の時代…233/「アラブの春」が招いた新たな混乱…239/「イスラム原理主義」という解決策?…241/ 世界を読み解くポイント イスラム原理主義…245

 第9章 永遠の火薬庫中東②
トルコ、イラン、イスラエル オスマン帝国はセーブル条約で切り刻まれた…249/日韓関係とそっくりなトルコ・ギリシア関係…251 世界を読み解くポイント アルメニア問題、クルド問題…253 「トルコはヨーロッパではない」と見ている欧州諸国…254/ペルシア帝国の復活を目指すイラン…257/イラン革命が世界に与えた衝撃…260/ 世界を読み解くポイント シーア派とスンナ派…263 なぜパレスチナにユダヤ国家が建設されたのか…264/パレスチナに流れ込むユダヤ人たち…267 世界を読み解くポイント ホロコーストと日本…269 「約束の地」は地政学的には最悪だった・・・268

 第10章 収奪された母なる大地アメリカ
人類の母なる大地…277/黒人奴隷狩りの真相…280/紅海ルートに注目した欧州列強…281 世界を読み解くポイント ブラック・アフリカ…283 ソマリアVSエチオピアという米ソ代理戦争…286/石油利権の影に中国が…292/アフリカが抱える問題の基本構造は同じ…300

 エピローグ 2050年の世界と日本…303

 地政学を学ぶための参考図書……309


プロローグ いまなぜ地政学が必要なのか?

   一番よく売れている高校の世界史教科書に、こういう記述があります。 「第二次世界大戦は、東アジアにおける日本、ヨーロッパにおけるイタリア・ドイツのファシズム国家が、国内危機を他国への侵略で解決しようとし、ヴェルサイユ・ワシントン体制を破壊する動きから始まった。(中略)…ドイツ・イタリアがヨーロッパで、日本が中国でそれぞれ別に始めた侵略戦争は、1941年の独ソ戦と太平洋戦争の開始とともに、世界戦争へと一体化した。
 連合国側がはやくから反ファシズムを掲げ、大西洋憲章によって新しい戦後秩序を示して、多くの国々の支持を集めたのに対し、ファシズム諸国は自国民の優秀さをとなえ、それぞれの支配圏確立をめざすだけで、広く世界に訴える普遍的理念を持だなかった。さらに、ファシズム諸国の暴力的な占領地支配は、占領地民衆の広い抵抗運動を呼び起こした。この結果、ファシズム諸国は事実上、全世界を敵にまわすことになって、敗北した」(山川出版社『詳説世界史B』2013)
 要約すると、
 ・連合国=新しい戦後秩序、普遍的理念を示し、多くの国々の支持を集めて勝利した。
 ・ファシズム諸国=侵略戦争、自国民の優秀さを主張、暴力的な占領地支配により敗北した。
 という歴史観を示しているのです。「正義は勝つ」という物語です。戦後、ドイツと日本で行なわれた戦犯法廷「ニュルンベルク裁判と東京裁判)で示された歴史観をそのまま記載しています。これが、戦後70年を経ても、高校世界史教科書の執筆者の認識を呪縛しているのです。
 「連合国」の中には自国民を数百万人虐殺したスターリンのソヴィエト連邦が含まれていたこと。「強奪された主権の返還」を掲げた「大西洋憲章」の起草者チャーチルが「この宣言はイギリス植民地には適用されない」と明言していること。東アジア各国首脳が東京に集まった大東亜会議で「相互の自主独立、人種差別の撤廃」を掲げた「大東亜宣言」を採択したこと。これらの事実については、完令に黙殺しています。

 第二次世界大戦が「悪に対する正義の勝利」であったのなら、戦後の世界は戦争のない理想郷であったはずです。ところが実際には、朝鮮戦争、インドシナ戦争、中東戦争、キューバ危機、印パ戦争、チェコ事件、中ソ国境紛争、ベトナム戦争、中越戦争、カンボジア内戦、ソ連のアフガニスタン侵攻、湾岸戦争、イラク戦争……と戦禍は絶えず、日々新たな紛争が生まれているのが現実です。  米ソ冷戦は、アメリカの勝利という形で終わりました。アメリカの思想家で日系三世のフランシス・フクヤマは『歴史の終わり』という著書の中で、「自由と民主主義が勝利したことにより、もはや世界に対立はなくなった」と書きました。ところが9・11テロ事件が起こり、アメリカのブッシュJr.政権は「テロとの戦い」を宣言してアフガニスタンとイラクに派兵します。今度は「自由と民主主義の擁護者アメリカと、テロ支援国家との戦い」のはじまりであり、「歴史は終わらなかった」のです。
 世界史を「悪(野蛮)に対する正義(文明)の勝利」とする見方は、古代ギリシアのヘロドトスに始まり、中世には十字軍を提唱したカトリック教会が引き継ぎ、近代になるとヘーゲルやマルクスが合理化しました。アメリカもこの理論に基づいて西部開拓(先住民迫害)、東京大空襲や原爆投下、イラク戦争を遂行してきました。「野蛮を撲滅するためには、多少の犠牲はやむを得ない」という論法です。
 世界史を正義の実現と見る「理想主義」とは真逆の立場を、「現実主義(リアリズム)」といいます。「歴史には正義も悪もない。各国はただ生存競争を続けているだけだ」という見方です。
 つまり第二次世界大戦は「列強の勢力争い」であり、連合国が勝ったからといって正義が実現したわけではなく、今度は戦勝国の間で新たな勢力争い(冷戦)が始まったのだ、となります。リアリズムの歴史観では生存競争は無限に続き、「歴史が終わる」ことはありません。古代から21世紀まで、国際紛争の主要因は常に国家間の生存競争であり、これを正当化するために宗教やイデオロギーが利用されている、という見方です。
 地政学(ジオポリティクス)は、リアリズムの一つです。
 国家間の対立を、地理的条件から説明するものです。国境を接していれば、領土紛争や移民問題が必ず発生する。だから隣国同士は潜在的な敵だ、という考え方です。現在、日本との関係が悪化しているのは、隣国である中国と韓国です。日本がナイジェリアやアルゼンチンと争うことはありません。遠すぎるからです。
 冷戦中、ソ連と中国はいずれも共産党政権でしたから、鉄の団結を示すはずでした。ところが両国は7000キロの国境を接する隣国であり、中国からの人口圧力をソ連は脅威に感じていました。つまり地政学的には敵対関係にあったわけです。
 このことに気づいたのがキッシンジャー博士でした。アメリカのニクソン大統領の補佐官として、「アメリカが中国に接近すれば、中ソ関係に楔を打ち込むことができます」とニクソンに進言したのです。この結果、ニクソン訪中が実現して米中蜜月時代が始まり、外資導入によって中国経済は急発展を遂げたのです。
 地政学は、帝国主義の論理です。国家と国家が国益をかけて衝突するとき、地理的条件がどのように影響するかを論じます。アメリカのマハン、イギリスのマッキンダーが、海洋国家(シーパワー)としての地政学を構築しました。海軍による海上交通路(シーレーン)の確保を最重視する理論です。これに対抗する形で、第一次世界大戦の敗戦国ドイツでハウスホーファーが大陸国家(ランドパワー)としての地政学を練り上げました。
 大戦中に日本は「大東亜共栄圏」を提唱しましたが、モデルを提供したのがハウスホーファーでした。ドイツの軍人として日本に長期滞在し、日本学の専門家でもあった彼は、イギリスの世界支配に対抗するため、米・独・ソ連・日本による世界四分割を構想したのです。松岡洋右外相に代表される日本のランドパワー派がこれを採用し、日独伊三国同盟や日ソ中立条約に結実しました。しかしヒトラーがソ連に攻め込み、また日本海軍が真珠湾を攻撃したことで米・ソを連合国側に追いやった結果、世界四分割構想は挫折したのです。
 敗戦後の日本では地政学の研究自体が禁じられ、タブー視されました。代わりに山川教科書のような、理想主義史観が幅をきかせることになったのです。 日本の敗北は戦略・戦術の誤りではなく「倫理的に間違った戦争をしたから」であり、「日本が深く反省し、謝罪を行なえば」戦争はなくなる、だから「憲法9条を守らなければならない」という脳内お花畑歴史観です。
 しかし日本が反省と謝罪をすればするほど、周辺諸国は居丈高になり、平和が遠のいていくという現状を、私たちはいま、目の当たりにしています。
 こういったお花畑歴史観、世界観を正すために、地政学は有効なのです。
 アメリカ、ロシア、中国、EU(欧州連合)……。各国のすぐれた指導者はリアリズムでモノを考え、行動しています。それが道徳的に正しいかどうかはどうでもよく、プーチン大統領や習近平国家主席がそういう動機で行動しているという事実(リアリティ)が重要なのです。
 相手の思考方法、世界のルールを熟知すれば近未来予想も可能になり、日本のとるべき選択肢もはっきり見えてくるでしょう。
 本書は、今日の国際紛争を地政学的見方から読み解いたものです。地政学そのものの理論については、巻末の参考文献を参照してください。
 2015年6月  茂木 誠


第1章~第3章 書き出しを紹介

第1章 アメリカ帝国の衰退は不可避なのか?
 ローマ人は自らの帝国の全盛期を「パクス・ロマーナ」と呼びました。「パクス」は力による強制的な「平和」を意味します。ローマ軍が地中海世界を征服して対抗勢力を壊滅させてしまったため、2世紀に及ぶパクスを実現したのです。ローマに征服されたイギリスの先住民の指導者はこう皮肉っています。 「ローマ人は廃墟を作ってこれをパクスと呼ぶ」と。
 19世紀、イギリス人は強大な海車力と金融の力で植民地帝国と自由貿易ネットワークを築き上げ、これを「パクス・ブリタニカ」と呼んで誇りました。しかし二度の世界大戦で疲弊し、アメリカにその地位を譲りました。
 20世紀の後半は、「パクス・アメリカーナ」の時代でした。それは日本とドイツに対する圧倒的な勝利に始まり、「ソ連(ロシア)の脅威から自由主義を守る」という大義を掲げて冷戦にも勝利しました。しかし過去のすべての帝国と同様に、アメリカ帝国も21世紀に入って急速に衰えを見せはじめました。イラク戦争後の中東政策の混乱と、リーマン・ショックに始まる金融危機はその象徴です。 いま私たちは、「アメリカの世紀」の終わりを見守っているのです。

 アメリカは「島」である
 アメリカ合衆国の地政学的特質は、その孤立性にあります。欧州大陸から2000キロ離れているため、欧州列強から直接攻撃を受けることは稀でしたし、アメリカ大陸には合衆国の安全を脅かす大国は存在しませんでした。歴史上、アメリカ合衆国の本土が直接攻撃されたのは、ナポレオン戦争中の米英戦争(1812-14)だけです。第二次世界大戦では日本車にハワイの真珠湾を攻撃されましたが、アメり力本土は最後まで無傷でした。欧州諸国の紛争から自由だったという意味ではイギリスとも似ており、オフショア・バランシング(沖合=オフショアから対象を観察し、パワーバランスを崩しかねない国か現われた場合、他の国と共闘して叩く→P190)が可能だったのです。よって英米系地政学ではアメリカを「巨大な島」と考えます。
 このような特殊な環境にイギリスから渡ってきたのは二種類の人々でした。
 第一のグループはピューリタン(清教徒)です。宗教改革の中から生まれたキリスト教 の原理主義者です。
 ユダヤ教から分かれたキリスト教は厳格な一神教でした。イエスを神と同一視し、それ以外のものを祀ることを禁じたのです。しかしローマ帝国に広がるにつれ、キリスト教会は各地の多神教の伝統を取り込んで妥協を図りました。イエスの母である聖母マリアや、イエスの弟子たちを「聖人」と呼んで教会に祀ったのは、多神教の影響です。イエスの弟子のヘテロを埋葬したローマが聖地となり、ついにはローマ教会の指導者(ローマ教皇〔法皇〕)が「神の代理人」と称するようになりました。こうして西欧化したキリスト教が、ローマ・カトリック教会です。
 16世紀に宗教改革を起こしたルターやカルヴァンが主張したのは、「キリスト教を本来の姿に戻せ!」ということでした。「キリスト教本来の姿は『新約聖書』に書いてあるはずだ。そこにはローマ教皇が神の代理人だとか、聖母マリアを祀れとか書いてないじゃないか!」といったのです。こうして生まれたのがプロテスタント教会です。プロテスタントの過激派はカトリック教会を襲撃し、聖人たちの像を破壊しました。
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第2章 台頭する中国はなぜ「悪魔」に変貌したのか?
 1970年代、日本にパンダを贈って「日中友好」を演出し、日本から総額6兆円の政府開発援助(ODA)を引き出して世界第二位の経済大国に成長した中国。2000年代以降、尖閣諸島をはじめとする南西諸島への領土的野心を隠さなくなり、歴史問題で執拗に日本を攻撃するようになりました。
 「天使」が「悪魔」に変貌したことに多くの日本人がはじめは戸惑い、やがて嫌悪し、世論調査では8割の日本人が「中国が嫌い」と回答するまでになりました。
 この「中国の変節」も、地政学で理解することができます。相手の論理が理解できないと、相手を悪魔的に過大評価したり、逆に侮蔑したりして対応を誤ることになるでしょう。
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第3章 朝鮮半島・・・バランサーか、コウモリか?
 サッカーW杯の日韓共同開催(2002)、韓国ドラマ『冬のソナタ』の日本放映(2003‐2004)のあたりから、日韓関係は新しい時代に入ったと思います。
 韓国語を学ぶ日本人が増え、東亜日報・朝鮮日報・中央日報など韓国のニュース・サイトも日本語で読めるようになりました。ところが、テレビ局が演出する華やかな「韓流ブーム」とは裏腹に、主にネットを通じて「韓国人の本音」を知つた日本人の間で、どうしようもない違和感が広かっていきました。 「植民地統治の歴史について、謝罪と反省を執拗に求める」 「日本文化の起源は、すべて韓国にあると主張する」 「竹島(韓国名・独島)の領有権問題で、感情的に反発する」
 決定的だったのは、李明博大統領(当時)の竹島上陸と天皇陛下に対する非礼な謝罪要求(2012)でした。大阪育ちで実業家でもある李明博氏は、知日派であろうと期待されていたからです。
 次の朴槿恵大統領は、初の女性大統領で日韓基本条約(1965)を結んだ朴正煕元大統領の娘でもあることから、日韓関係の改善が期待されました。しかし彼女は就任直後から戦時賠償問題・・・とりわけ「従軍慰安婦問題」にこだわり、日韓首脳会談を拒否しつづけています。
 最近の韓国は、いったいどうなってしまったんだろう?  この疑問を、地政学で読み解いていきましょう。
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エピローグ 2050年の世界と日本

 英国の『エコノミスト』誌が「2050年の世界」という未来絵図を描いています(2013)。
 ・世界人口は20億人増えて70億人を突破。アフリカの成長が著しい。
 ・経済大国は、中国・米国・インド・ブラジル・ロシア・インドネシア・メキシコになる。
 ・EU諸国、日本は高齢化で衰退する。日本の平均年齢は52.3歳。GDPは三分の一に減少している。
 この予測が出たのは2013年、日本では3年続いた民主党政権が崩壊し、自民党の第2次安倍内閣が発足したばかりでした。世界金融危機のあと、2009年に発足した民主党政権が放置した円高株安によるダメージで日本経済は底を打った状態にあり、逆に中国は2010年にGDPで日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出たばかりでした。『エコノミスト』誌の中国礼賛、BRICS礼賛、日本に対する悲観的な見方は、このような時代背景によるものです。
 その後、第2次安倍政権が「アペノミクス」を始動し、日銀の大規模な金融緩和によって日本経済は円安株高に転じ、7000円台だった日経平均株価は2万円台に達しました。逆に中国は不動産バブルが失速し、元高と労働コストの上昇によって「世界の工場」の地位を失いつつあります。石油価格の暴落により、産油国のロシア、ブラジルは青色吐息。一時はもてはやされたBRICSという言葉も、ほとんど聞かれなくなりました。かつて「中国進出に乗り遅れるな!」と煽っていた経済誌が、いまでは「いかに中国から撤退するか」という記事を書いています。
 わずか2~3年後のことさえ予測が困難だということです。
 ですから、2050年の世界を予測しても、多分当たらないでしょう。ただ、これだけは言えます。各国相変わらず生存競争を続けており、世界政府みたいなものは成立していない。衰退するアメリカに取って代わるだけの超大国は現われず、EU、ロシア、イラン、インド、中国などの地域覇権国家による世界分割が進んでいるだろうと。
 日本はどこへ行くのか。
 戦後70年以上、日本はアメリカの「保護国」として日米安保体制に依存しつつ経済成長に専念し、西側(シーパワー)の一角に地位を築いてきました。 戦後日本の主流派であった「親米保守」の立場です。しかしアメリカの覇権は臨界点を超えて衰退期に入っており、日本が今後もこの地位にしがみつけば、やがて泥舟と運命を共にすることになるでしょう。
 これからは中国と手を組むべきだ、という主張もあります。元中国大使の丹羽宇一郎氏、元外交官の孫崎亨氏、民主党代表の岡田克也氏らの主張です。 日本が中国の保護下に入れば、日中関係は劇的に好転するでしょう。丹羽氏が会長を務めた伊藤忠商事、岡田氏の兄が経営するイオンをはじめ、中国進出企業には利益をもたらすかもしれません。
 しかしそれは、日中両国民の幸福には繋がりません。中国は共産党の一党独裁体制であり、言論・集会の自由はもちろん、財産権さえ制限されています。 チペット・ウイグルなどの少数民族はもとより、漢民族の一般大衆が正当な権利を主張できないでいるのです。複数政党制と公正な選挙を訴えた作家の劉暁波氏は2010年のノーベル平和賞を受賞しましたが、北京政府に拘束されて授賞式に出席できず、いまも獄中にいます。
 日本が中国の保護国になることは、これまで日本が守ってきた政治的・経済的自由を失うことにほかなりません。「日中友好派」の言論人・財界人が唱える「友好」とは、北京の独裁政権との友好です。彼らは北京政府による人権抑圧に抗議することはありません。中国共産党が好んだ表現を使えば、「日中友好派は、日中両国人民の共通の敵」なのです。
 アメリカ頼むに足らず、中国近寄るべからず、とすれば、「第三の道」は明らかです。
 日本が自主防衛を実現し、東アジアにおける自由主義諸国のリーダーになることです。
 南シナ海の権益を中国と争うフィリピンは日本からの巡視船の提供を求め、オーストラリアは日本からの潜水艦の輸入を求めています。将来は、米軍に代わって自衛隊(名称は変わるかもしれません)の駐留を求めてくるかもしれません。これら西太平洋の海洋諸国家(シーパワー)を束ねてNATO(北大西洋条約機構)の太平洋版・・・西太平洋条約機構(WPT)を結成し、日本がその要になるのです。2050年までという戦略目標を立て、それまでに憲法改正を含む国内法の整備、兵器の国産化を進める。そして防衛費を支えるために年率2~3%の経済成長を維持する。
 未来は確定的なものではなく、これから作っていくものです。本書執筆時(2015)に20歳の若者が、35年後に55歳になったときの国のイメージを、いまから作っていく。
 明治維新(1868)から約35年後、日本はロシアとの戦争に勝利して列強の一員になりました。
 絶望的敗戦(1945)から約35年後、日本は経済力でアメリカを脅かし、GDP世界第二位の経済大国になりました。
 日本人には、どん底から立ち上がるという底力があります。
 「第二の敗戦」といわれたバブル崩壊の後遺症からようやく脱却しつつある日本。再び新たな「坂の上の雲」を目指して、はい上がる時代を迎えたのです。

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