朝鮮総連に破産申立てを!

朝鮮総連が傘下の朝銀を破綻させたため、日本国民は1兆3453億円もの公的資金を負担させられた、しかし回収できていないという・・・。

朝鮮総連に破産申立てを!

 
 著者は「朝鮮総連が傘下の朝銀を破綻させたため、日本国民は1兆3453億円もの公的資金を負担させられた。」「朝鮮総連は元本合計627億7708万円について真の債務者であると認めた。」と解説しています。しかし、それを回収できていないという。
その解決策が「朝鮮総連への破産申立て」であり、今すぐできるうえ効果抜群の策だという。

 それが「拉致被害者救出のため必要」「売国議員が炙り出される」「スパイ防止法制定を後押し」に繋がる可能性があるという。
 素晴らしいと思う。

 加藤健さんの「朝鮮総連に破産申立てを!」 を紹介するために、以下に目次や目を留めた項目をコピペさせていただきます。
 興味が湧いて、他も読んでみたいと思ったら、是非とも本書を手にしていただければと思います。

朝鮮総連に破産申立てを! 加藤健



目次

 まえがき 1

 第一章 血税1兆円以上を奪った朝銀とは
想像を絶する巨額の被害 12 /   朝鮮総連が支配する金融機関 16 /   死ぬ寸前まで子供を殴り続ける 25 /   死の威嚇をともなう掟 28

 第二章 金融当局の呆れた対応・親北議員の暗躍
あまりにも杜撰な血税投人 34 /   朝鮮総連の威圧力 42 /   ノーパンしゃぶしゃぶ事件 49

 第三章 朝銀による犯罪の数々
裏で犯罪が進行 58 /   破綻ラッシュ前に160億円を引き出す 65 /   そして2次破綻 70 /   95億円か消え、8割は使途不明 74 /   朝鮮総連の陰謀・金融庁の怠慢 82

 第四章 なぜ朝銀は破綻したのか
デタラメの極致だった融資 98 /   朝鮮総連のタカリ 105 /   「民族差別」の言いがかり 108 /   鮮総連によるヘイトスピーチ 113 /   社民党が警察庁に怒鳴り込む 117 /   朝鮮総連が「復讐」を誓う 121 /   本国への巨額送金 126 /   覚せい剤密輸 130 /   我が国の公務員への殺人未遂 135

 第五章 10年で1割も取れない債権回収
身勝手な言い分 140 /   「強制連行」の真実 143 /   本部ビルを巡る攻防 153 /   朝鮮総連の挑発行為 156 /   マネーロンダリング疑惑の追及 158 /   絶望的な債権回収 160

 第六章 100億円の「隠し財産」朝鮮大学校
堂々と所有 164 /   金正恩の親衛隊が日本に 166 /   壮絶なリンチ 168 /   朝鮮大学校の国連制裁破り 174 /   ほかにも各地に財産が 178

 第七章 朝鮮総連の拉致への関与
構成員が犯行に加わった事案 182 /   拉致を可能にした周到な準備 189 /   800人以上の特定失踪者 192 /   実際の拉致被害者は1000人以上か? 195 /   外国パスポート悪用の実態 198 /   地獄の収容所で殺された日本人妻 205

 第八章 これが北朝鮮の人道犯罪だ
民族差別による大量殺人 214 /   金正恩は「反逆者の孫」だった 218 /   人道犯罪阻止のため安倍政権が果たした役割 223

 第九章 朝鮮総連の原点はテロ組織
新聞でみるテロ活動の実態 232 /   強制送還は「国を挙げての世論」 237 /   覚せい剤密売や生活保護が資金源 240

 第十章 いまこそ朝鮮総連に「破産申立て」を
この手がある 246 /   日本の良心 248 /   拉致被害者救出のため必要 250 /   信義にもとるといわれないため 253 /   売国議員が炙り出される 256 /   スパイ防止法制定を後押し 258

 あとがき 261

 参考文献 263  


まえがき

 本書を手にされた方の大部分は被害者である。朝鮮総連が傘下の朝銀を破綻させたため、日本国民は1兆3453億円もの公的資金を負担させられた。単純に割れば国民1人あたり1万円以上である。実際には幼児など納税していない国民もいるので、破綻時に仕事をして所得税や法人税を納め、日々消費税を払っていた方は相当額を負担させられている。何十万円も払わされた読者もいるだろう。私たち日本国民が額に汗して一所懸命働いて納めた金が、朝鮮総連の犯罪の尻拭いに使われてしまった。
 安倍総理が国会で答弁した通り、朝銀破綻は「破綻することがわかっているにもかかわらず、後で預金保険機構あるいは公的資金が入ることを前提にどんどん貸していく、そして大きな穴をあけた結果なんですね」であり、「北朝鮮に金が渡るということを前提に貸し手側と借り手側か一体となっていた」のだ。北朝鮮に送金された金は核・ミサイル開発の資金となり、いま私たちの生命を脅かしている。米ジョンズ・ホプキンス大の研究グループによれば、北朝鮮が東京とソウルを核攻撃した場合、最大で死者210万人、負傷者770万人が出るという。払わされた金で、家族の命を危険にさらすハメになってしまった。
 平成11年7月6日の衆議院大蔵委員会で、3100億円の資金役人を受けた朝銀大阪幹部の驚くべき証言が紹介された。
 「預金を金正日に流したのだから逮捕を覚悟した、逮捕されたらすべてを語るつもりでいたが、だれも調査に来ず、来たのは預金保険機構からの3100億円の贈与であった、そして逮捕を免れた」。
 まるで奇跡の体験談だ。世界中どこの国でも金融機関の預金を外国に流せば、重罪になることは間違いない。北朝鮮なら拷問のうえ銃殺刑だろう。ところが朝銀幹部は逮捕を免れただけでなく、調査さえ来なかったという。代わりに、私たち日本国民のお金3100億円が振り込まれてきたというのだ。
 おかしな話は山ほどある。13の朝銀が一斉破綻した前月、そのうち9の朝銀から160億円か引き出されている。日本国民の金が入るとわかって、「どうせならもっと取ってやれ」と系列会社に流したのだ。預金保険機構と裁判所はこの行為を厳しく非難したが、結局国民の共有財産から払わされるハメになった。
 こうした「功績」を高く評価され、朝鮮総連の元財政局長は歿後「共和国英雄」称号を授与された。1000円盗むとコソ泥だが、1兆円巻き上げると「英雄」か。
 朝鮮総連は裁判所から支払いを命じられたが、無視して開き直っている。競売にかけられた本部ビルを事実上買戻して居座り、挑発行為まで行った。都内の100億円の土地のほか各地に不動産を保有し、保険会社や通信社なども経営するが、返済には一向に応じない。
 朝鮮総連は自ら認める通り、北朝鮮の事実上の大使館である。国内で様々な工作活動を行い、日本人拉致には構成員が直接関与している。騙して北朝鮮に送った日本人妻の一部は、強制収容所で殺された。遺体はゴミのように捨てられている。
 朝鮮総連の前身はテロ組織である。戦後の苦しかった時代、日本国民に襲いかかってきた。当時の読売新聞には「三万人のテロ団」「赤い朝鮮人に食われる血税」「日本のアヘン戦争 密造元は大半“北鮮系”」といった見出しが躍っている。吉田茂首相は「好ましからざる朝鮮人は強制送還をぜひとも断行する」と答弁し、法務大臣は「不良朝鮮人を強制送還せよというのは国を挙げての世論といってよい」と記者会見で述べている。ところがいつの間にか、火炎瓶や棍棒で警官隊を襲った集団は「弱者」「被害者」ということになり、犯罪を批判すると「民族差別」と糾弾されるようになった。
 朝鮮総連の高級幹部だった韓光煕(ハングァンヒ)氏は著書のなかで、「日本の当局と交渉するにあたっては、何かにつけて『民族差別』だの『過去の歴史』だのを持ち出してことさら猛々しく振る舞い、理不尽な要求でものませようとする。そうすると、敗戦によって贖罪意識を植えつけられている日本人は決まっておとなしくなってしまうのだ」(『わが朝鮮総連の罪と罰』)と述べ ているが、理不尽な要求を呑まされたのは当局に限らない。
 いま朝鮮総連は、北朝鮮国内での取材許可という「アメ」も使って、テレビ局を含むマスコミ各社への統制を強めている。あるマスコミ幹部は「北朝鮮関連のことを正しく報道しようと思ったら、まず社内と戦わないといけない」と苦渋の表情で語る。
 私たち日本国民はルールを守り、信義誠実を重んじる。本書の読者層はその中核の方であろう。しかし信頼で成り立つ私たちの社会は、法の裏をかく無法者に弱い。徹底した悪意を持つ組織に、いいようにやられている。正直者が馬鹿を見ている。
 これまで猛烈な抗議を恐れて、朝鮮総連についてほとんど語られてこなかった。本書では朝銀破綻から朝鮮総連の実態、そしてギャフンと言わせる秘策「破産申立て」について明らかにしたい。破産は拉致被害者救出のための強力な交渉カードとなる。そして売国議員の炙り出しやスパイ防止法制定にも資する。
 日本国民はずっと泣き寝入りしてきた。それが70年も続いてきた。もう終わりにしようではないか。
 なお、朝銀に関係する金額はマスコミに様々な数字が出ているが、本書では金融庁や預金保険機構が作成した文書、裁判所の判決、国会答弁を基準とした。また肩書は、基本的に事件当時のものとした。


朝鮮総連が支配する金融機関

 朝銀は、朝鮮総連構成員のために各地に設立されていた北朝鮮系金融機関である。朝銀東京(破綻・2319億円投入)、朝銀愛知(破綻・1090億円投入)など、朝銀と地域名を組み合わせた商号の信用組合が最盛期に38あった。公安調査庁によれば、38朝銀信組のうち16信組の理事長が朝鮮総連の中央委員を兼ねていた。
 一般に「朝鮮銀行」といういわれ方をするが、銀行業の免許は受けていない。中小企業等協同組合法に基づき都道府県知事の認可を得て設立された信用組合であり、それぞれが別個の法人格を持っていた。
 上部組織は朝鮮総連の傘下団体・在日本朝鮮信用組合協会(朝信協)で、人事権を朝鮮総連に握られていた。朝信協は会長と前会長が背任罪で逮捕され、平成14年に解散している。警察庁の国会答弁によれば各地の朝銀は、朝信協の定款、規定および諸決定事項に従うことが義務づけられていた。上意下達の関係にあったのだ。
 上田清司議員(現埼玉県知事)は平成12年3月29日の衆議院大蔵委員会で、朝銀のもともとの本部は北朝鮮の朝鮮労働党にあり、その下にある朝鮮総連が朝信協を指揮下に置き、朝信協が本店、各地の朝銀が支店のような関係ではないかと政府を質した。実際に上田議員のいう通りで、内部事情に詳しい人物は、「理事長といえども、実態は『支店長』の位置づけだった」と証言する。役員は各地の朝銀を転々とする「ローテーション人事」で、たとえば平成15年に業務上横領などで懲役2年6月の実刑判決を受けた朝銀東京の元理事長は、朝銀岐阜の理事長をやっていたとき抜擢されて東京に異動している。同じ年に背任罪で懲役3年執行猶予4年の有罪判決を受けた朝信協の李庭浩(リジョンホ)元会長(最後の会長)は、大阪から和歌山、岡山へと異動したあと朝銀大阪理事長に就任し、キャリアの最後で頭取のような存在の朝信協会長になった。地域や職域に根差した普通の信用組合では考えられないことだ。全体が一つの組織でないと、ローテーション人事など無理である。
 朝銀全体の預金総額は、破綻前の平成8年3月末で2兆5717億円あった。規模的には地方銀行レベルである。たとえば明治11年に設立された四国銀行は、四国を中心に115の店舗を持ち、四国の経済界で重要な位置を占めるが、平成29年3月末の総預金残高が2兆6203億円である。朝銀は信用組合といっても、「朝鮮銀行」の通称に近かったのだ。
 大きな違いは、地方銀行が大蔵省や金融監督庁(現金融庁)の監督下にあったのに対し、朝銀は都道府県に責任があったことだ。朝鮮総連が支配するような金融機関に、都道府県が十分な監督を行えるはずがない。また都道府県の監督権限は認可した法人にしか及ばず、「本店」である朝信協やその上の朝鮮総連には手も足も出ない。朝銀がやりたい放題だった背景には法律上の問題があった。結局平成12年4月に、全ての信用組合の検査・監督権限が都道府県知事から国に移管された。
 朝銀は朝信協だけでなく、「学習組」をも通して朝鮮総連の支配下にあった。警察庁は平成14年10月29日の衆議院安全保障委員会で「学習組は、朝鮮総連とその関連団体の中に組織をされておりまして、北朝鮮に絶対の忠誠を誓う非公然組織であります。警察といたしましては、公共の安全と秩序の維持という責務を果たす観点から、この学習組につきましても、重大な関心を持って情報収集を行っております」と答弁している。北朝鮮に絶対服従の秘密組織で、危険だから監視しているというのだ。
 学習組の規模については、平成11年7月6日の衆議院大蔵委員会で公安調査庁が「現在、学習組員数は五千人とみております」と答弁している。平成11年時点で5000人というのは相当な人数である。警察庁組織犯罪対策部が出している『平成29年における組織犯罪の情勢』によれば、29年末の六代目山口組の構成員は4700人、神戸山口組は2500人、住吉会は2900人、稲川会は2300人である。
 学習組は朝鮮労働党の日本支部のようなもので、朝鮮総連を実質的に支配する裏組織である。傘下の団体や事業体にそれぞれ学習組があり、北朝鮮に忠実だと認められた者だけが加入を許された。昭和30年代に朝鮮総連中央本部財政委員を務めたあと内部告発した関貴星(旧名・呉貴星)氏の著書『楽園の夢破れて』によれば、昭和36年に学習組の改編がおこなわれ、共産主義の学習グループから非合法地下活動のための組織となった。元学習組員で、現在は朝鮮総連を厳しく批判するコリア国際研究所所長の朴斗鎮(パクトゥジン)氏は著書『朝鮮総連』のなかで、「『学習組』は人間の体にたとえると神経のようなものである。人間の諸器官は脳からの指令を神経を通じて受け取っている。神経はレントゲンでは写らない。朝鮮学校や朝銀など、朝鮮総連傘下のさまざまな組織は、『神経』である『学習組』を通じて支配されているが、その痕跡をつかむことは難しい。重要な指示は口頭で伝達され、文書に残らない」と説明する。その存在は一般の朝鮮総連構成員にも秘密で、選ばれて秘密組織に入ったという優越感は忠誠心を高める働きもした。各職場の学習組は秘密集会を開き、「党の唯一思想体系確立の10大原則」を暗唱したり、金日成の著書について何時間も討論したりした。さらに自分の生活態度に忠誠心に欠ける部分があったと自己批判させ、それをほかの参加者に糾弾させることも集会の重要な目的だった。
 朝鮮総連中央本部財政局副局長まで出世した元組員の韓光煕氏は、著書『わが朝鮮総連の罪と罰』で学習組について詳しく述べている。この本はジャーナリストの野村旗守氏が聞き取って構成したもので、信頼性が高い第一級の資料である。過去に国会審議で何度も引用されている。本書でも繰り返し引用したい。
 韓光煕氏は、朝鮮総連が同胞の在日コリアンに害しかもたらさなかったと真摯に反省し、命懸けで内部告発した人物である。著書によれば、朝鮮総連の機関紙で「変節者」と糾弾された5日後に危険な目に遭っている。友人と軽くビールを飲んだあと、JR山手線の御徒町駅のホームに立っていたときのことだ。電車が飛び込んでくると同時に、3人組の男たちに背中を押された。男たちは逃げて、犯人は不明である。
 ちなみに筆者の知人の大学教員も、朝鮮総連を非難する記者会見を開いたしばらく後に轢き逃げされている。この事件は警察が捜査したが、犯人は逮捕されていない。轢き逃げの検挙率は高く、死亡事故に限っていえば9割を超えるので不可解である。事件の何年か後に知人と一緒に別件で警察に行ったら、実直そうな警部さんが申し訳なさそうな表情だった。
 拉致被害者救出のため活動する「救う会埼玉」の竹本博光代表は平成23年2月、さいたま市長に面会して朝鮮学校への補助金停止を求める直前に、何者かに自宅前に発煙筒を置かれた。発見が遅れたら、火が燃え移って火事になるところだった。竹本代表は極左暴力集団のテロに憤りを覚えた中学生の頃から40年以上活動しているベテランで、国学院大学在学中は命を狙われた経験もある。発煙筒はやる気の炎を燃え上がらせただけだった。
 証拠を基に事実認定する本書では、これらの事件の犯人を推測しない。わからないとだけ記しておく。
 さて晩年に目を覚ました韓光煕氏だが、若い頃は朝鮮総連が正しいと信じて突っ走っていた。学習組員に推薦された青春の日のことを、次のように述懐する。

 扉が閉まるなり、委員長が厳かな口調で言った。
 「韓光煕同務、これから我々が話す内容は、たとえ家族に対してでも秘密にしなければならない」  突然何を言い出すのかと思ったが、その場の空気は、これから何かとてつもなく重大なことが起こるだろうということを悟らせるのには十分だった。私は思わず身を固くして「はい」とひと言だけ答えた。
 「韓光煕同務、君を学習組員に推薦する」
 何のことかさっぱり事情が飲み込めない私は、ただ戸惑うばかりであった。
 「学習組……?」  ただ呆然と、幹部たちの顔を順繰りに見つめながら私は呟いたと思う。
 「ここは日本だから学習組という言葉を使うが、じつは栄光ある朝鮮労働党の在日非公然組織のことだ。つまり、我々は君を朝鮮労働党員に推薦しようというわけだ」
 車組織部長が言った。
 労働党員といえば、選び抜かれた朝鮮民主主義人民共和国の精鋭であり、金日成元帥の忠実な戦士であるといつも聞かされていた。その党員に、まだ二十歳にもなっていないこの私が……。しかし、幹部たちは、支部時代から今日にいたるまでの私の働きぶりをつぶさに観察したうえで、君なら大丈夫だ、推薦に値する、と言ってくれた。あまりに突然で、そしてあまりに光栄で、私は自分がかすかに身震いしているのを感じずにはいられなかった。
 入党のためには二名の保証人が必要とのことであったが、これには車部長と県本部副委員長がなってくれた。(『わが朝鮮総連の罪と罰』)

 学習組員、すなわち朝鮮労働党員になる前に、韓光煕氏は朝鮮総連の研修施設・中央学院で3ヶ月間の合宿生活を送っている。後に6ヶ月コースも受講した。これが徹底した洗脳である。朝鮮労働党の歴史や金日成の偉大性を学ぶとともに、「総括」を行う。受講者につまらない規則違反を自己批判させたあと、ほかの受講者が「恥を知れ!」「金日成将軍に謝れ!」「お前のような人間がいるから日本人に見下されるのだ!」と徹底的に罵倒する。総括はたいてい講義が終わった午後5時に始まり、深夜にまで及ぶこともある。明け方までやっていることもあった。1人の活動家に対して、通常1週間くらいぶっ続けでやる。皆の前で泣き出すまで、執拗に吊るし上げて精神的に追い込むのだ。発狂寸前までいく者も出てくる。人格を破壊し、疲れ切った心にイデオロギーを植え付ける典型的な洗脳の手法である。連合赤軍が同じ「総括」の名のもとに、次々と仲間を殺す事件を起こしたとき、朝鮮総連の活動家はなにが起こっていたか、ただちに理解できたという。
 韓光煕氏はいう。「こうして、六ヵ月間が終わったころには完全な思想改造ができ上がり、頭のなかは金日成主義一色になってしまう。つまり、幹部養成機関といえば聞こえがいいが、ようするに中央学院とは総連活動家の洗脳工作機関のことである。そこで学ぶと、他のことは一切見えなくなってしまうのだ。北朝鮮に盲従する総連ロボットの完成である」。
 研修の最後のころになると、全員が朝の4時か5時には起きだして、庭のあちこちでブツブツいいながら金日成の著書を読んでいた。カルト集団である。
 いっぽう『朝鮮総連工作員』の著者で、約20年間工作活動に従事したあと深く反省して内部告発した張龍雲(チャンヨンウン)氏は、この徹底したイジメともいうべき研修を途中で抜け出している。このままいれば自我が完全に破壊されると思い、暴力的手段に訴えてでも中途退学すると宣言し、強引に引き返したのだ。研修では自殺者も出たと書いている。

 現在でも、この思想総括はいわゆる「マインドコントロール」の最たるものであり、民主主義とはとうてい相いれない、むしろ武器より恐ろしいものであると思っている。
 活動家の中にも、思想総括の結果、自殺者も出たし、精神を侵されて、入院した者もいる。
 また完全に社会常識が逆転してしまい、依然として金日成の亡霊にしがみついて、北の軍事独裁政権を最も優れた民主国家であると主張している人も多い。(『朝鮮総連工作員』)

 北朝鮮は国をあげて洗脳を行っている。本国では生活総和と呼ばれている。現在日本で暮らす脱北者は、生活総和は辛かったと振り返る。まず自己批判する材料を探すのが大変なのだ。当たり障りのないネタを探して自己批判しないと、反逆者扱いされて強制収容所送りになりかねない。アメリカ国務省が毎年出している国別人権報告書によれば、誤って金正日の写真がある新聞紙の上に腰かけただけで、強制収容所に送られた人もいるほどだ。そこで、「家にある金日成将軍の肖像画の上に埃がかかっていた。本当に申し訳ない。恥ずかしい」といった作り話をする。それをほかの参加者が、激しい言葉で罵倒する。すると腹が立つので、ほかの参加者が自己批判するとき仕返しで厳しく糾弾する。憎しみの連鎖のなかで洗脳するとともに、反抗の芽を摘む陰湿極まりない仕掛けなのだ。「性格の優しい日本人には到底耐えられないだろう」という。


朝鮮総連の威圧力

 大阪府の検査結果が信頼おけないことを、大蔵省と金融監督庁(平成12年に金融庁に改組)はよくわかっていたはずだ。大阪府による検査は、幹部が気づかなかったくらいだから、極めて形式的だったのだろう。あの当時地方自治体が、朝鮮総連が支配する金融機関に強い態度で出られるような力関係ではなかった。以前、日銀出身で衆議院議員になった小野塚勝俊氏から話を聞く機会があったが、氏が日銀で朝銀破綻処理を担当することになったとき、上司から防弾チョッキを渡されて死を覚悟したといっていた。東京から各地に赴任する日銀マンでさえ、命の危険を感じる相手だったのだ。 朝銀大阪が破綻する数年前の平成6年4月15日には、同じ大阪で朝鮮総連による組織的な襲撃事件が起きている。北朝鮮を厳しく非難していた「救え! 北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」(RENK)の集会が、数十人の朝鮮総連構成員に襲われたのだ。RENK代表の関西大学教授・李英和(リヨンファ)氏の著書『朝鮮総連と収容所共和国』によれば、開催前から誹誇中傷や嫌がらせ、脅迫が凄かった。朝鮮総連幹部から「脅迫しないから会ってくれ」といわれて会うと、「4月15日には150人を動員して集会をツブす。なかには気の荒い者もいるから、どんな事態が起きるか分からないぞ。5年や6年のムショ暮らしなど平気な若者がゴロゴロいるからな」と宣告された。朝鮮総連の基準では、このレベルは「脅迫」に入らないのか?
 当日、脅迫は実行に移された。数十人の暴徒が主催者の制止を振り切って会場に乱入し、備品をひっくり返すなど乱暴狼籍を始めた。さらに警察官を押し倒し、警備の壁を突き破って「李英和を出せ」「李英和を殺せ」と襲いかかってきた。現場で取材していた報道陣も、小突かれたり、胸倉を掴まれたりして会場外に放り出された。筆者は現場にいた別の人から、「朝鮮総連は凄い勢いで襲いかかってきた。今日死ぬのだと思った」と聞いている。
 事件の10日後、大阪府警は威力業務妨害の疑いで朝鮮総連大阪府本部など8ヶ所を家宅捜索した。それに対する朝鮮総連側のコメントは、「意図的な政治弾圧だ。断じて許すべきではなく、大阪府警に責任を取らせるように法的手段に訴えたい」だった。まるで被害者である。
 ところが証拠書類を押収されたとわかると、朝鮮総連はトーンダウンした。襲撃の計画書、指示メモ、襲撃後の総括文書などを警察は入手した。それらの分析から、襲撃前の4月4日と19日に役割分担を指示する事前の会合まで開いていたことが明らかになった。幹部らは、「事前に謀議した」と認める陳述書を提出して、21入が書類送検された。
 大阪府の朝銀の担当者も、事件について報道で知っていただろう。「ちゃんと検査せなアカンで」といわれても、実際のところ容易ではない。警察のような実力があるわけではない。それに差別だの政治弾圧だのと大騒ぎされると、まったく見当違いな批判とわかっていても、地方自治体は弱いものだ。
 そうした事情を、大蔵省は身をもって知っている。大蔵省の外局の国税庁が、長い年月にわたって威圧的で執拗な抗議に晒されてきたのだ。たとえば昭和42年、朝銀東京の前身の同和信用組合が任意の税務調査への協力を拒絶したので、国税犯則取締法に基づいて強制捜査したところ大騒ぎになっている。捜査対象のうち上野支店では従業員ら50人から60人が激しく抗議したほか、200人の朝鮮総連構成員が集まって気勢をあげた。やむなく東京国税局の要請で警察の機動隊が出動し、ボール箱20箱ほどの書類を押収した。ところが今度は、電源を切ってシャッターを開かないようにして、税務署員を建物から出られないようにした。そこで警官隊が二階に梯子をかけて入り、ジャッキでシャッターをこじ開けてようやく押収書類を運び出した。このとき警察官が棍棒のようなもので殴られてケガをしている。朝鮮総連側はそれでもあきたらず、東京・大手町の東京国税局に150人ほどで押しかけて、玄関の窓ガラスを割るなどした。
 朝鮮総連サイドは、裁判所の令状に基づくこの強制捜査を不当な弾圧だと糾弾する。朝鮮大学校経営学部の元学部長である呉圭祥(オギュサン)氏が著した『在日朝鮮人企業活動形成史』は、「朝銀東京にたいする強制調査弾圧事件は、『韓日条約』締結以後いっそう悪らつ化した共和国敵対敵視政策、反総聯政策の一環であり、在日朝鮮商工人弾圧策動の一角である」としている。その背景として、「日本軍国主義による南朝鮮再侵策動」を挙げる。
 日本の法など歯牙にもかけていないのだ。遵法精神はカケラほども感じられない。「南朝鮮再侵策動」に至っては、やっているのは日本でなく北朝鮮なのだから笑止千万である。北朝鮮は統一を国是としており、韓国侵略の意思を隠していない。オウム真理教がかつて、「アメリカから毒ガス攻撃を受けている。だから武装しないといけないのだ」と主張していたことを思い出させる。
 強制捜査のあとも数百人の朝鮮総連構成員が1週間以上にわたって東京国税局に押しかけて、執拗に抗議活動を繰り広げた。また朝鮮総連副議長名で抗議談話を発表したほか、朝信協と朝鮮総連傘下の商工連合会は記者会見を開き、日本当局を激しく非難した。
 同書168ページに、「日本税務当局の弾圧策動のいくつかを羅列してみる」とある。はて、どんな不当な人権侵害を訴えるのだろう、税務署員に拷問されたとでもいうのかと思ったら、5件の脱税への査察のことだったので失笑を禁じ得なかった。巨額の脱税をすれば、査察を受けるのは当たり前である。いわゆるマルサ(国税局査察部)が査察するのは、金額が大きい犯罪となる脱税事案である。普通の申告漏れではない。査察とは犯罪捜査のことである。それを朝鮮大学校の元学部長が公刊物で「弾圧策動」と一刀両断するあたりに、組織の体質がよく現れている。朝鮮総連が掲げる「在日同胞の権利擁護」の実態がわかる。
 同書は「不当な税金弾圧」に対する「積極的なたたかい」の成果として、昭和51年に商工連合会が国税庁と結んだという「合意」に触れている。

 このような活動を踏まえて、1976年11月に商工連合会の代表者が田辺国税長官と会談し、在日朝鮮商工人の税金問題に関する合意をみた。ここでは国税庁の国税課長も同席し、日本社会党の衆議院議員が立会人となっている。
 その内容は、つぎのとおりである。
 1.在日朝鮮人の税金問題は朝鮮人商工会との協議によって解決する。
 2.定期定額の商工団体の会費は損金と認める。
 3.朝鮮人学校運営の負担金については前向きに検討する。
 4.経済活動のための第三国への旅行の費用は損金と認める。
 5.法定で係争中の諸案件は話合いで解決する。
 この「合意事項」が成立したのは、商工団体が税金問題解決のために実質的な団体交渉権を行使するようになったという点で貴重な成果といえる。もちろん商工団体のまえにはこの「合意」を堅固に守り抜く問題が提起される。
 1970年代は、商工団体の活動でも貴重な前進を遂げた年代といえよう。(「在日朝鮮人企業活動形成史』)

 「合意」については、朝鮮総連中央常務委員会が発行した公式書籍である『朝鮮総聯』も触れている。

 朝鮮総聯は、日本当局の不当な税務弾圧をとりやめさせ、税金問題を公正に解決するため、ねばりづよいたたかいをくりひろげた。
 こうして1976年、在日本朝鮮人商工連合会と日本国税庁のあいだに、税金問題解決にかんする5項目の「合意」がとりかわされた。(「朝鮮総聯」編集委員会『朝鮮総聯』)

 そしてコラムで「5項目の『合意事項』」を紹介している。翻訳の過程で生じた誤差が、呉圭祥氏の著書と少し文言が異なるが、内容は完全に同じである。一番重要な団体交渉権については、「①朝鮮商工人のすべての税金問題は、朝鮮商工会と協議して解決する」と記されている。
 「合意」は劇的な力を発揮したようである。平成元年10月17日の衆議院予算委員会で浜田幸一議員は、北関東の朝鮮人商工会会長がほとんど税金を払っていないことを明らかにした。政界の暴れん坊として知られたハマコー議員が、「北朝鮮関係のドン」と呼んだ会長が経営するパチンコ会社の納税状況は、次の通りだった。

 株式会社P 売上高15億6850万円(昭和60年から63年5月) 納税額48万円
 有限会社G 売上高7446万円 納税額ゼロ
 H観光 売上高20億4700万円(昭和61年7月から62年6月) 納税額ゼロ

 冗談のような金額である。世間一般にボロ儲けと思われているパチンコ店で、合計37億円も売上があって、納税額がたったの48万円。浜田議員は、「常識的に言ってこのような申告状況はおかしいのではないかと思いまして、それでも生きていられるのですから、よほどドンではないかと思ってドンという言葉を使わせていただいた」と皮肉を込めて述べている。この質問は、『週刊文春』が火をつけた「社会党パチンコ疑惑」の追及のなかで出てきたものである。
 国税庁は「合意」の存在を強く否定する。しかし存在は半ば常識となっている。産経新聞の検証記事「朝鮮商工連 国税庁の『税金特権』合意あったのか 北の核・ミサイル開発資金どこから?」(平成29年6月4日付)によれば、米政府の国家経済会議専門エコノミストを務めたマーカス・ノーランド氏は平成7年にまとめた調査報告書で「朝鮮総連関係の企業が日本の国税庁から特別の優遇措置を黙認されていることを日本政府関係者も非公式に認めている」と記述している。「合意」に至った会談の当事者だった朝鮮商工連の李鐘泰元副会長は産経新聞の取材に、「詳しいやりとりは覚えていないが、あれから国税当局の対応が変わり、税金の申告はスムーズに受理された」と話した。いっぽう、国税庁の田口和巳元所得税課長は「陳情を受けただけで、約束めいたことは言っていない」と主張した。
 平成10年に産経新聞が「合意」をめぐる双方の主張をはじめて報じたときは、朝鮮商工連の約50人の抗議団が産経新聞東京本社を訪れ、「私たち在日同胞商工人は、差別されこそすれ、何人からも『特別な扱い』を受けたことはない」「こうした一連の情報は、米・『韓』・日の情報・謀略機関がわが国と朝鮮総連、在日朝鮮人の間にくさびを打ち、陥れるためにでっち上げたものである」と謝罪と訂正を求める抗議文を手渡したが、「合意」の有無には触れなかったという。
 いずれにせよ大蔵省は、地方自治体が朝鮮総連の威圧に十分対処できず、朝銀の実情がブラックボックスであることを認識していたはずだ。


朝鮮総連のタカリ

 韓光煕氏の名前を使って朝銀東京から巨額の金を引き出した、朝鮮総連の康永官(カンヨングァン)・元財政局長。彼もまた、自分や妻の名前で何十億円も借りていた。驚くべきことに康元財政局長は新聞社の取材に、「実際の借り手は総連本体で、金も総連のために使っていた。妻の名義を使って借り入れたこともある」と正直に認めている。隠しても無駄と思ったのか?
 すでに見てきたように朝鮮総連は、近畿地方の朝銀から明らかになっただけで約150億円を融資名目で引き出していた。ほかにも全国の朝銀で巨額の被害が確認されている。関東地方の4つの朝銀が合併してできた朝銀関東は191億円である。しかし朝鮮総連が、事実上「東京支店」に過ぎない朝銀東京から融資名目で引き出した残高は257億円(平成10年3月末)と突出していた。平成3年に100億円、平成6年に200億円を超え、増えるいっぽうだった。大口信用供与規制の限度額を超え、違法な状態が続いていた。むろん「借入」といっても返さないのだから、実質的に贈与であり、257億円を巻き上げたということだ。しかも257億円は記録に残っている金額であり、裏金で支出した分を含まない。朝銀京都のゴルフ場開発融資のような、朝鮮総連の指示でできた不良債権も含まない。朝銀東京はいいようにムシられていた。
 裁判で朝鮮総連が金を引き出した手口が明らかになっている。毎年一定額の「賛助金」徴収と、金がほしくなるたびに「貸せ」といって引き出す2通りである。暴力団が縄張り内の風俗店から定期的にみかじめ料を徴収するとともに、経営者に「貸してくれ」といって夕力るのに似ている。
 「賛助金」は朝鮮総連が、朝信協を介して全国の朝銀に割り当てていたものだ。総額は毎年4億円から5億円で、このうち朝銀東京に課せられていたのは8000万円から1億円である。あまりにも高いので朝銀東京の理事長が減額を申し入れたが、却下されている。朝鮮総連は朝信協に取りまとめを指示し、朝信協が全国の朝銀に命じて裏金を作らせ、朝銀東京本店営業部に開設した架空名義口座に振り込ませていた。架空口座は「韓相一」「朴剛誠」「金一龍」「高一男」といった個人名で1、2年おきに変更していた。振り込むほうも朝銀福島が「バンダイタロウ」、朝銀長野が「ナガノハジメ」といった偽名で振り込むなど、日本当局に察知されないよう細心の注意が払われていた。1年で4、5億円は、20年なら80億円から100億円である。経費として落とせる科目でなく、裏金でねん出させられていたのだから、朝銀の負担は相当なものだった。
 「貸せ」といって夕力るやり方が、金額的には主体である。手形を入れたり、無価値な担保設定を行って直営企業に融資させたり、康元財政局長の日本名「東永一」名義を使うなど様々な手段が用いられたが、ここでは事件になった手口を解説したい。
 朝銀東京の場合、すでに相当な金額を朝鮮総連に貸したかたちになっていたので、担当者が形式的に利息入金の督促を行っていた。すると当時現役だった康財政局長は朝銀東京の理事長に連絡し、新たな貸出しをしたうえで「浮かし」を行うよう要求した。新たに借りた金の一部で督促された利息を支払い、浮いた金を巻き上げるのだ。要求を受けた理事長は副理事長に指示し、副理事長はさらに常務理事兼本店営業部長に指示し、女性の本店営業部預金係課長が端末不正操作や伝票破棄で辻褄をあわせて実行した。浮かせた金は、康財政局長が管理する「姜忠一」「安秀哲」名義の架空口座に入金されて横領された。こうした過程が日常的に繰り返され、残高は雪だるま式に増えていった。
 むろん犯罪行為なので、東京都の検査で発見されると問題になる。そこで誤魔化すために新たな犯罪が行われた。平成10年の検査のとき東京都は、金融機関側か資産を自己査定し、その内容を検証する方式を導入したばかりだった。自己査定にあたって金融機関側は、融資案件ごとに融資額や担保、返済の状況を書いた調査表(ラインシート)をつくり、「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」に分類するよう求められていた。東京都が検査するのは、10億円以上の大口融資と不良債権に限られる。朝銀東京は大口の不良債権を小口に分割し、正常債権と偽り、問題の融資の調査表を提出せず隠した。しかし翌年破綻すると、すべての融資について再検査が行われて不良債権隠しが発覚した。元理事長や元副理事長ら4人は平成13年11月8日、検査忌避の疑いで逮捕された。


本国への巨額送金

 康元財政局長が「共和国英雄」称号授与の栄に浴したのは、北朝鮮本国への送金が高く評価されたからと思われる。日本国民に1兆円以上の損害を与えたことは金正日を大喜びさせたに違いないが、ダメージだけでは英雄称号は難しい。利得がないといけない。
 朝鮮総連の送金は、長い間北朝鮮の生命線だった。日本から送られた金で、北朝鮮は体制維持できていた。過去数十年間に送金された総額は誰にもわからないが、1兆円は下らないはずだ。その日本マネーが北朝鮮の核開発を可能たらしめ、いま私たちの生命を脅かしている。
 「まえがき」で書いたように安倍総理は、平成27年2月20日の衆議院予算委員会で朝銀破綻について「いわば不正融資というか、北朝鮮に金が渡るということを前提に貸し手側と借り手側か一体となっていたという問題がありました」と述べている。これは極秘情報を含めた様々な情報に基づく、日本政府の公式見解である。北朝鮮送金は「前提」だったのだ。
 送金については長く誤解があった。正規ルートの銀行送金が中心と思われていた。そのため北朝鮮への送金を扱っていた足利銀行に疑いの目が向けられたが、実際には証拠が残る送金は付け足し程度でしかなかった。
 中心は証拠が残らない船による現金密輸である。財政局で現金運搬に直接関わった韓光煕氏が証言する。

 献金はすべて現金でおこなわれる。
 代表団は飛行機で移動するが、彼らが携えて現金を運ぶわけではない。一回につき、10億、20億という巨額の現金を運ぶこともあるから、とても手持ちでは不可能だ。新潟港に入港してくる北朝鮮の船に乗せて運ぶのである。80年代は主に三池淵号が現金輸送に用いられ、92年からこれが万景92号に代わった。
 献金工作のみならず、北朝鮮から朝鮮総連に対する指令は、ほとんどすべてと言ってよいほど、この船を通しておこなわれる。(『わが朝鮮総連の罪と罰』)

 万景峰号には、朝鮮総連を担当していた金正日の側近・姜周一(カンジュイル)が乗ってきた。北朝鮮工作機関「225局」のトップで、朝鮮総連を事実上支配していた男だ。船では「指導船長」という肩書で、最高責任者として自らの部屋を持っていた。韓氏によれば指導船長室に許宗萬氏が呼ばれ、「次の首領様の誕生日までに何億円集めよ」といった指令を直接口頭で伝達されていた。
 指令を受け取ると許氏は朝鮮総連本部に持ち帰り、中央常任委員会で全国の朝銀に対する割り当てを決定する。規模などに応じて、各地の朝銀がそれぞれ幾ら出すか一方的に決めるのだ。むろん努力目標でなく、金額を明示した上での「出せ」という命令である。
 指令を受けた各朝銀の理事長は、指定された金額を現金で用意して、大型の旅行カバンなどに詰めて、若い職員同伴で東京の朝鮮総連本部ビルに運ぶ。本部ビル4階の財政局第1部の部屋に、大人の男が両手を広げて直立したまますっぽり入れるくらいの巨大な金庫があった。全国の朝銀から集められた巨額の現金は、いったん巨大金庫に収められる。
 そこから先の運搬が財政局の担当である。朝鮮総連のなかに空手有段者で構成される「ふくろう部隊」と呼ばれる実力組織がある。普段は最高幹部のボディガードなどをやっている彼らを指揮して、各自に現金を1億円くらい入れたカバンを持たせて、上越新幹線で新潟駅まで運ぶのだ。
 新潟駅に着くと車が迎えにきて、新潟港近くの朝鮮総連中央本部新潟出張所に現金が運び込まれる。そこで2、3000万円ずつに小分けにして袋に入れ、船に乗り込む一般の構成員に手荷物と一緒に運ばせて完了する。韓氏は全部で約30回、新潟まで現金を届けたと証言する。
 韓氏によれば、漁船などを装った北朝鮮工作船に運び込む方法もとられていた。億単位の現金をビニールで厳重に包み、指定された夜の海岸に現れる潜水服姿の工作員に渡すのである。工作員からすれば、日本人を拉致して連れていく工作に比べて、暴れるわけでも叫ぶわけでもない現金を運ぶのは楽な仕事だっただろう。
 何十年にもわたって野放しにされてきた北朝鮮への送金だが、ついに平成28年に非合法化された。実現させたのは、古屋圭司・元拉致問題担当大臣である。
 筆者らは送金の報告義務は強化されたものの、送金自体が禁止されていないのはおかしいと考え、平成27年5月7日に当時自民党拉致問題対策本部長だった古屋議員に面会して訴えた。そうしたところ古屋議員は即決即断、「よしわかった」といって検討を約束してくれた。
 すぐさま自民党内で徹底した議論が行われた。膨大な英文資料を読み込むことで知られる対策本部事務局長の塚田一郎議員は、カナダの対北朝鮮独自制裁が1000カナダドル(約9万円)以上の送金を禁止していて、国民を拉致されている日本より厳しいことを確認するなどした。カナダより甘いようでは、国際社会から拉致被害者救出への本気度を疑われる。そして審議のあと、古屋議員は党の提言書に送金禁止を入れると、6月25日に安倍総理を官邸に訪ねて直接提案した。この間たったの1ヶ月半。事実上実施が内定した。
 翌年政府は対北制裁を強化するタイミングで、送金を原則禁止した。例外として認められたのは、人道目的の10万円以下の送金のみであり、全面禁止に近い。また報告なしで日本から北朝鮮に持ち出せる現金も10万円までとなった。遅きに失したとはいえ、歴史的な一歩だった。いま対北朝鮮送金は、犯罪として取り締まることができる。摘発が待たれる。


身勝手な言い分

 破綻した朝銀から不良債権を引き継いだ整理回収機構は、朝鮮総連から金を取り返すため、金額を確定するところから始めた。むろん日本国民が払わされた1兆3453億円の全額について、朝鮮総連は道義的責任を負っている。朝銀は朝鮮総連の金融機関なのだから、責任があるのは当たり前の話だ。しかし回収の対象になるのは、融資のかたちで引き出した金である。記録がない裏金で引き出した分は、どうにもならないのが実際のところだ。組織犯罪の立証は本当に難しい。また時効にかかった分も泣き寝入りせざるを得ない。
 朝鮮総連が金を引き出し続けた数十年間と比べると、10年の時効(商事債権なら5年)はあまりに短く感じる。背任罪等の公訴時効も長くない。朝銀山口の金融整理管財人報告書に次の記述がある。「付け回しについては、最初の資金流出行為が背任等犯罪に該当する可能性が高いと考えられますが、既に公訴時効が完成しており、刑事責任追及には至っておりません」。腹立たしいことばかりだ。
 融資のかたちで引き出した分さえ、なかなか実態が掴めない。そこで朝鮮総連側の代理人である元日本弁護士連合会会長の土屋公献弁護士を交渉窓口として調査が行われ、朝鮮総連は元本合計627億7708万円について真の債務者であると認めた。朝鮮総連が自ら責任を認めたのである。
 普通認めたなら、「ご迷惑をかけて申し訳ありません」と資産を売り払って返済に回し、足りない分は分割で返していくのが当然である。ましてや朝鮮総連は事実上の大使館であり、公的機関だ。ところが朝鮮総連は誠意のかけらも見せなかった。そこで整理回収機構は平成17年、本部ビルを差押えるため東京地裁に「627億円を返済せよ」と求める訴訟を提起した。
 朝鮮総連は裁判で呆れた主張をした。まず訴えたのは、「朝鮮総連は在日朝鮮人の生活と権利を守るため組織された団体で、その本部施設は日本と国交を有する諸外国における大使館にも比すべき活動の本拠だ。仮に朝鮮総連が敗訴し、本部施設を競売に付されるなどして失えば、在日朝鮮人が苦境に追い込まれる」ということだ。
 事実は正反対である。朝銀へのタカリや、9万人以上を「地上の楽園」だと騙して北朝鮮に送りこんだことなどでわかるように、朝鮮総連が存在しないほうが構成員の生活と権利は守られる。苦境に追い込まれるどころか、無い方がプラスなのだ。また本部ビルを失ったところで、活動できなくなるわけではない。どこかに場所を移して活動を続けることはわかり切っている。仮にすべての所有不動産を取り上げられ、賃貸物件からも追い出されたとしても、最高幹部の一人が経営するパチンコチェーンを間借りするはずだ。
 そもそも本部ビルがなくなると困るなんて、被害者である日本国民からすれば「知ったことか」である。被害を弁済できないような組織が、立派な本部を構えていること自体がおかしいのだ。
 朝鮮総連は裁判で整理回収機構を非難した。「整理回収機構の目的が純粋な債権回収とは到底考えることはできない。日本政府の意向に迎合して朝鮮総連の本部施設を奪い、朝鮮総連を解散に追い込む政治的意図を有していると言わざるを得ない。このような整理回収機構の姿勢は、在日朝鮮人の利益を無視するものであり、企業再生追求の趣旨にも反し、人間の尊厳を損なうものだ」と不当性を主張した。その理由として、本部ビルを競売にかけて30億円や40億円を回収したところで、そのために朝鮮総連は活動を停止せざるを得なくなり、整理回収機構はそれ以上回収することが不可能になるからだという。
 整理回収機構は、財務省・金融庁所管の特殊法人である預金保険機構が株式の100%を保有し、日本政府の下にある会社である。仮に政府が朝鮮総連を解散に追い込むと決意して、整理回収機構が先兵として動いているなら実に素晴らしいことだが、残念ながら事実ではない。単に債権回収を行っているだけだ。朝鮮総連以外にも、暴力団を含む多数の不誠実な債務者を追っている。
 朝鮮総連はさらに、「整理回収機構の暴利行為は公序良俗に反する。恐らく4%以下の低廉な価額で不良債権を譲り受けたと思われる」と非難した。
 これを朝鮮総連が主張するのだから噴飯ものである。暴利などむろん事実ではない。現時点でさえ、整理回収機構は巨額の経費をかけながらほとんど回収できていない。赤字である。暴利どころか、黒字になることさえ阻止してきたのが朝鮮総連なのだ。自ら阻止しておいて、暴利行為の糾弾とは開いた口が塞がらない。
 東京地裁は平成19年6月18日、朝鮮総連に627億円全額と年利5%の割合による遅延損害金の支払いを命じた。当然のことながら裁判所は、朝鮮総連の主張を一切認めなかった。判決は、「請求原因事実についてはいずれも争いはない。したがって本件請求をもって、権利濫用ないし公序良俗違反に当たるものと認めることはできない」とした。
 ちなみにこの裁判では、印紙代だけで6888万円かかっている。これも日本国民が負担している。


堂々と所有

 これ以上公然たる「隠し財産」はほかにあるだろうか? 裁判所から910億円の支払いを命じられた朝鮮総連は、中核組織名義で100億円の土地を持っているのだ。東京都小平市にある幹部養成校・朝鮮大学校(朝大)の広大な敷地である。朝鮮総連ホームページには住所が出ているし、堂々と看板も掲げられている。事情を知らない人は、北朝鮮の事実上の大使館である朝鮮総連が、治外法権を認められていると勘違いするかも知れない。
 呉圭祥元学部長が著した『記録・朝鮮総聯60年』によれば、昭和30年に開催された朝鮮総連中央委員会第二回会議で「朝鮮大学」創立が決定され、担当の委員会が組織された。設立目的として中堅幹部や教育活動家(教員)の養成が掲げられ、昭和31年に開学し34年に現在の場所に移転した。用地買収にあたってトランジスタ工場を作ると偽って売主を騙したことや、北朝鮮本国から資金援助を受けたことは朝鮮総連の刊行物に明記されている。初代学長は韓徳銖(ハンドクス)・朝鮮総連議長で、当初から組織の中核的存在だった。平成30年3月まで学長だった故・張炳泰(チャンピョンテ)氏は最高人民会議代議員で、再入国禁止の制裁対象者だった。
 朝大の敷地を調べると一部は借地だったが、1万6666坪は学校法人東京朝鮮学園名義で所有権が登記されていた。テニスコート210面分の広さである。借入を担保するための抵当権は設定されておらず、すぐに売ることができる。不動産業者に問い合わせたところ近隣住宅地の相場は坪60万円くらいとのことなので、単純計算で100億円になる。また同じ町内に教職員宿舎があり、敷地1164坪を所有している。こちらは7億円である。
 被害者の日本国民が「朝大を売って返済せよ」と考えるのは至極当然だ。なにしろ朝鮮総連ホームページに少し前まで「朝鮮大学校の存在は、朝鮮総聯と在日同胞が民族史に築きあげた誇らしい業績であり、財産である」と明記されていたほどだ。そう「財産」なのだ。朝鮮学校初級部(小学校)の社会の教科書にも「総連は朝鮮大学校をはじめとする教育機関、金剛保険をはじめとする経済機関、金剛山歌劇団をはじめとする文化機関、朝鮮新報社をはじめとする出版報道機関も持っています」(東京都調査報告書)と書かれている。「持って」いるのである。
 朝大の南側にあった第2グラウンドは平成2年、朝鮮総連直営企業「朝鮮特産物販売」の借金のため担保提供された。返済が滞ったため平成24年に競売開始決定がされ、翌年取り下げられるまで差押えを受けていた経緯がある。朝鮮特産物販売は平成27年、北朝鮮産マツタケの不正輸入事件で摘発され、社長や許宗萬議長の次男が外為法違反と関税法違反で有罪判決を受けた会社である。認可権者の東京都は担保を抹消するよう指導を続け、結局グラウンドは売却されて代金は返済に回された。グラウンドだけでなく敷地全部を売却して、日本国民に返済すべきではないか。


800人以上の特定失踪者

 ようやく最近になって、政府が認定した17人以外にも拉致被害者が大勢いることが一般に知られるようになった。以前はほとんど知られていなかった。東アジア情勢分析を業務とする各国の在京大使館でさえ知らなかったほどだ。
 平成23年から24年にかけて、元仙台市長の梅原克彦氏(元駐米公使)の指導を受けながら、被害者家族の藤田隆司さんや救う会埼玉の竹本博光代表らとともに40以上の大使館を訪問して、拉致問題解決への助力を要請した。梅原氏の顔で大使や公使に会うことができたが、政府認定拉致被害者以外に被害者がいると知っていた大使館は僅かだった。それどころか、拉致問題の重要性さえあまり知られていなかった。イタリアの大使が「拉致問題を説明にきたのはあなたたちが最初だ」と驚いていたことが印象に残っている。
 警察庁は政府認定の拉致被害者以外に、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者が800人以上いると発表している。いわゆる「特定失踪者」である。その中には藤田隆司さんの兄、藤田進さんのように、拉致の証拠が揃っていて国連から認定されている被害者も含まれる。
 藤田進さんは東京学芸大学の1年生だった昭和51年2月7日に拉致された。拉致を手伝った在日コリアンの男が深く後悔し、週刊誌上で犯行を告白した。監禁場所と名指しされた病院の当時の経営者は、北朝鮮中枢と深い関係があった人物である。

 その日の夜、藤田さんの意識がしっかりしてきました。しかし、現実が受け入れられないのか、ただただ大声で泣き叫んでいました。慟哭という感じでした。
 「どこへ連れて行くんだ!」「なんだ、これは!」という叫びが、いまも強く耳に残っています。
 2日目、3日目も会話はなく、食事は摂るようになったのですが、藤田さんは身動きが制限される保護服を着たまま、ただじっとしていました。叫ぶこともなくなりました。
 4日目になって、「ここはどこですか」「自分はなんでここにいるんですか」と、涙をいっぱいに溜めた脅えきった目で私に聞いてきました。これが、最初で最後の会話です。(『週刊現代』2007年4月21日号)

 藤田進さんの事件は、ほかの拉致事件にも関与して国際手配されている大物工作員チェ・スンチョル容疑者が指揮していた。告白した男は、藤田進さんを引き取りにいった帰りに道に迷い、チェ容疑者にひどく怒られたと証言している。監禁場所とされる病院は、警視庁が平成17年に家宅捜索している。
 藤田進さん拉致の決定的証拠は、脱北者の男性によって北朝鮮からもたらされた本人の写真である。法人類学の第一人者である東京歯科大学の橋本正次教授が鑑定したところ、眉の部分の傷、ホクロの位置、目・鼻・耳等の位置バランスが高校生時代の写真と完全に一致し、本人であるとの結論が出ている。よく似た顔の人は外国にもいるかも知れないが、ホクロ・傷の位置から各パーツのバランス(人間の顔は微妙にズレている)まで100%完全に一致する人はいないし、作りようがない。
 日本当局による無線傍受記録もある。産経新聞は平成18年1月10日朝刊の一面トップで、藤田進さんの拉致直前に現れた北朝鮮工作船の無線交信を解析したところ、横田めぐみさんが拉致されたときの通信と「交信状況が酷似していた」と報じた。情報源保護のためか奥歯にものが挟まったような書き方だが、簡単に言えば自衛隊か警察が北朝鮮の暗号無線を傍受・解読して、なにが起きていたか把握していたということだ。
 そのほかに、藤田進さんを金正日政治軍事大学で目撃したとの証言もある。
 平成24年に筆者のほうで申立書を書き、藤田隆司さんは国連人権理事会の強制的失踪作業部会に介入を要請した。作業部会は十分な証拠がないと取り上げないのでハードルが高いが、すぐに受理された。国連が藤田進さん拉致を認定したのである。藤田隆司さんは同年7月、当時の松原仁拉致問題担当大臣の尽力でジュネーブに公費渡航し、国連人権理事会で特定失踪者問題を力強く訴えた。これが前例となって、ほかの特定失踪者家族も公費で海外のイベントに参加できるようになった。
 松原仁議員は平成27年10月1日の記者会見で、藤田進さんと、同じく特定失踪者の大澤孝司さんについて、大臣在任中に警察などの情報から「その2人が間違いなく拉致されていたことを確信していた」「生存も確信していた」と明らかにした。詳しい内容は守秘義務があるため明らかにしなかったが、拉致・生存の秘密情報があったと、元大臣が証言したのである。そして「この2人を、本来であれば認定被害者にするのが筋だと思う」と述べた。
 それでも藤田進さんは拉致認定されない。120%明確でないと認定されないのだ。刑事裁判で有罪となる「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証」では足りない。藤田進さんのように99.9%確実で、国連が認定し、担当大臣が確信していてもまだ足りない。制度が硬直化している。


民族差別による大量殺人

 北朝鮮の人権状況を調べていた国連調査委員会は平成26年2月、400ページ近い報告書を発表した。そのなかで「北朝鮮による組織的、広範かつ重大な人権侵害」が「人道に対する罪」を構成すると認定した。つまりナチやポルポトのような人道犯罪が現に行われていると、国連が認定したのだ。
 報告書は日本人拉致を含めて、北朝鮮の人道犯罪を事細かく記述している。読んでいると気分が悪くなる内容ばかりだ。特に気分が悪くなるのは、北朝鮮当局の民族差別に基づく、中国人の血をひく子供の大量虐殺である。いまも進行中の北朝鮮によるヘイトクライム(憎悪犯罪)である。
 報告書は、組織的な子供殺しについて5ページを割いている。「委員会は、強制送還された女性と子供に対し、国内法・国際法に違反して、強制堕胎および嬰児殺しが広範に行われていると認定する」と明確にしている。
 中国で捕えられ、北朝鮮に強制送還された脱北者の妊婦の子は、中国人との混血児は絶滅させるという方針により、生まれるとすぐ水につけて窒息させるなどして殺されている。報告書は次のように書く。

 ほとんどの場合、強制送還された女性が拘置されている施設の看守は、赤ん坊を溺死させるか、顔に布などをかぶせて窒息死させるか、うつ伏せに寝させて息ができないようにして殺すよう、母親か第三者に強要する。(国連調査委員会報告書詳細版パラグラフ432)
 過去数回強制送還され、二人の妊娠女性の強制堕胎を目撃した女性は委員会に対し、「もし中国で妊娠すると、中国人男性に妊娠させられたと推定されるので、北朝鮮に強制送還される妊娠女性は強制堕胎させられるのです」と語った。(報告書詳細版パラグラフ426)

 母親の目の前で子供を殺したり、母親にわが子を殺すことを強要したりしているのだ。悪魔の所業というほかない。報告書は赤ん坊が水の中で泡を吐きながら死んでいき、手慣れた様子で生ゴミのように持っていかれる様子を目撃証言として紹介している。
 強制堕胎のやり方も凄まじい。6種類の方法が紹介されているが、その1つは「妊婦の腹を蹴り続ける」。
 報告書は理由として、中国人との混血が「朝鮮民族の純粋性」を汚すという北朝鮮当局の考え方を挙げる。次の証言が紹介されている。

 ある証人は委員会に、強制堕胎させられる前の妊婦が受けた虐待について証言した。茂山(ムサン)郡拘置施設において看守たちは、虐待で苦悶の表情を浮かべる妊婦の女性に、様々な身体的・言語的虐待とともに「腹に中国人の子なんか抱えやかって」との罵声を浴びせていた。
 ある証人は穏城(オンソン)郡国家安全保衛部拘置施設で、強制送還された女性の生まれたばかりの赤ん坊を、看守が奪うところを目撃した。独房で赤ん坊が(医学的処置を受けることなく)生まれるとすぐ、看守は「この赤ん坊は人間でない。汚れているから生きる資格がない」と言いながらバケツに入れて持って行ってしまった。
 別の証人は委員会に、会寧の国家安全保衛部拘置施設で職員が、堕胎のため妊娠女性の性器に強制的に化学物質を注入したときのことを説明した。職員たちは行いながら、「混血の人間」を絶滅させなければと言っていた。(報告書詳細版パラグラフ426)

 こうした残虐行為には、北朝鮮当局なりの「慈善目的」があるというから狂っている。委員会は次のように分析する。

 純粋な朝鮮民族の血統でない子供への蔑視は、当局や治安機関だけでなく、北朝鮮社会全体に存在すると見られる。国家安全保衛部元職員の証言によれば、強制堕胎は「汚れた」子を持つことによる差別から女性を守るという慈善目的からも行われていると推定される。(報告書詳細版パラグラフ427)

 虐殺は以前から行われていた。BBCは平成15年10月22日に「北朝鮮が収容者の赤ん坊を殺害」というタイトルの記事を出し、新生児が母親の目の前でタオルを使って窒息死させられたり、生き埋めにして殺されたりしていると告発した。またアメリカ国務省の人権報告書は、毎年のように北朝鮮の子供殺しを伝えてきた。筆者はこうした記述を引用して、世界各国の政府関係者や議員に北朝鮮を告発する手紙やメールを大量に送り続けてきた。子供殺しは、北朝鮮人権問題に関わる人にとって常識的な話だ。それでも国連調査委員会報告書をはじめて読んだときは眠れなかった。
 報告書はまた、中国国内で北朝鮮工作員が行った拉致について複数の事例を挙げて説明している。報告書最後の勧告部分で国連調査委員会は、「北朝鮮工作員による中国領域内の拉致を、直ちに止めさせるよう対策を講じよ」「中国政府は拉致、中国国籍を得る資格のある子供の虐殺・強制堕胎その他強制送還者への人権侵害について、北朝鮮最高指導者や他の高位当局者に問い質すべきである」と求めている。つまり国連は、「自国民の子が殺されているんだぞ!金正恩になんか言えよ!」と厳しく注意したのだ。中国政府は恥を知るべきだ。
 戦前に上海の租界で「犬と中国人は入るべからず」という看板が立っていたという。現在北朝鮮は「汚れた中国人の子は生きるべからず」といって、組織的に子供を虐殺している。それでも中国は「血で固めた友誼」といって北朝鮮を支援し続けている。やるほうもやられるほうも、最低の犯罪者である。
 問題はそれにとどまらない。この極悪非道な人道犯罪に、中国政府は加担しているのだ。中国人男性の子を身ごもって北朝鮮に強制送還される女性のほとんどは、中国当局によって拘束されている。中国政府は自国民虐殺の共同正犯なのだ。北朝鮮の人道犯罪刑事責任とともに、中国の責任も追及する必要がある。


新聞でみるテロ活動の実態

 朝鮮総連が破壊活動防止法に基づく調査対象団体なのは、前身組織が数々のテロ事件を起こしたからである。政府は河村たかし議員の質問主意書に対して、平成19年7月10日に次の答弁を閣議決定した。

 公安調査庁としては、朝鮮総聯の前身組織である在日朝鮮統一民主戦線が、これまでにダイナマイト、火炎びん等を使用して傷害や放火を引き起こすなど暴力主義的破壊活動を行った疑いがあるものと認識しており、北朝鮮とも密接な関係を有していることから、今後の情勢いかんによっては、将来、暴力主義的破壊活動を行うおそれのあることを否定し得ないものと認識している。

 答弁書はまた、警察庁の見解として次のように述べる。

 警察としては、朝鮮総聯の前身である在日朝鮮統一民主戦線が、暴力主義的破壊活動を行った疑いがあるものと考えている。

 組織は人間と同じように、本質的部分は何十年経っても変わらない。方針転換しても指導部が交代しても抜本改革を試みても、不思議と組織の出自や初期の姿を引きずる。組織自体が生命を持っていて、人智を超えた部分がある。人の運命など簡単に飲み込んでしまう。非科学的に聞こえるかも知れないが、経験からおわかりいただける方が多いだろう。そこで朝鮮総連の前身組織について見ていきたい。当時の国民世論も感じていただきたい。
 最初にご覧いただきたいのは、昭和27年10月22日付の朝日新聞に掲載された日本共産党(当時の新聞は日共と略)による凄惨なリンチ事件の記事である。日共の「女工工作隊」が東京・三河島で、大手紡績会社に勤める18歳と19歳の女性2人を十数日間に亘って監禁し、「お前は会社側のスパイだ。自供しろ。死んでもよいのだ。川へたたき込んでやる」などと脅して査問した事件である。18歳の女性は注射を打たれて眠れないようにされ、リンチを加えられていた。むろん摘発された事件は氷山の一角だろう。
 このリンチ事件で16人が逮捕されたが、大部分は在日コリアンである。肩書を見ると「祖防隊員荒川地区キャップ」「朝鮮人小学校講師」「在日朝鮮人教育者同盟員」などとなっている。
 当時日共は、全国的に大規模なテロ活動を展開していた。昭和27年の「白鳥事件」では取締りにあたっていた白鳥一雄警部をピストルで射殺し、最高裁で有罪が確定している。日共は犯行を否定したが、射殺事件後に党札幌委員会名義で「見よ天誄遂に降る!」「白鳥の死は弾圧に対する当然の結果である」と書かれたビラが撒かれている。元々日共は「コミンテルン日本支部」といい、ソ連の命令に従うテロ組織だった。昭和7年にコミンテルンから与えられた「32年テーゼ」では、「天皇制」の打倒を命令されている。今でいえばアルカイダやISの日本人構成員が国内でテロ活動を行っているようなものだ。現在日共はテロ活動を休止中だが、完全に放棄したわけでなく、破壊活動防止法に基づく調査対象団体である。
 日共の先兵となっていたのが、いずれも朝鮮総連の前身である在日朝鮮統一民主戦線(民戦)と、テロ実行組織である祖国防衛委員会(祖防)と傘下の祖国防衛隊(祖防隊)だった。公安調査庁の藤井五一郎初代長官は昭和29年に全閣僚への報告で「日本共産党は彼らの強い民族意識と粗暴な行動力を日本革命に利用しようとして、活動的朝鮮人を多数入党させている」「民戦や祖防隊等北鮮系団体に対する指導権は、日本共産党が完全に握っておる状況」と述べている。
 昭和27年3月30日の読売新聞に掲載された「日本に潜る赤い朝鮮人 三万人のテロ團(団)日共と金日成が指令」という解説記事によれば、前年11月に長野県で聞かれた祖防の会合で、金日成による「敵陣地に降下させた落下傘部隊である」との激励が紹介されたという。たしかに金日成のいうとおり、日本に降りたった敵国の破壊活動部隊である。たまには正しいことをいう。
 組織は鉄の規律が支配していた。昭和27年7月27日に祖防隊の東京・城西地区の元責任者が、血まみれになり半死半生の状態で杉並区の交番に助けを求めてきた。調べてみると元責任者が隊を離脱したので、ほかの隊員が「組織の規定で行う」と宣言して棍棒やレンガで5時間にわたってメッタ打ちにしていたことがわかった。元責任者は3回気絶したが、最後に気絶したとき死んだと思われて路上に放置された。この事件で逮捕されたのは、朝鮮人学校教師やPTA会長らだった。
 民戦と祖防は、戦後の混乱で打ちひしがれる日本国民に襲いかかった。この時期全国で何十という騒乱事件が起きたが、衆議院法務委員会は昭和26年に行った現地調査のあと、「北鮮系暴力破壊分子」と日共党員の「合作行動」であると結論づけている。国際的関連性について委員の押谷富三議員は、「朝鮮動乱における戦況の推移と、関西及び中京地区におきます本件の騒乱の推移とは、まったく相呼応いたしておる様相を呈しているのであります。また関西、中京におきます一連の本件騒乱事件は、国際連合軍の協力を妨害する意図をもって企てているような事実が見られるのであります」と2月8日の委員会で報告している。
 もっとも激しい騒乱事件が起きたのは昭和27年5月から7月の間である。日本の「三大騒擾事件」のすべてが発生し、民戦と祖防が深く関わっている。「血のメーデー事件」では、多くの日本人にとって神聖な場所である皇居前広場で、左翼とともに棍棒や竹ヤリで警官隊に襲いかかった。警察官の負傷者は重傷83名、軽傷678名だった。この事件で民戦の中央委員や祖防隊地区責任者らが逮捕されている。
 同年6月の吹田事件では、国連軍への物資輸送拠点となっていた大阪の国鉄吹田操車場をデモ名目で攻撃した。警官隊は火炎瓶や硫酸瓶で襲われ重傷者が出た。写真は火炎瓶攻撃で制服を焼かれた警察官で、『アサヒグラフ』に掲載されたものだ。北朝鮮ゲリラ部隊による軍事攻撃といっていい。


この手がある

 傍若無人の朝鮮総連を震え上がらせる方法が一つある。破産申立てだ。裁判所に書類を出すだけで朝鮮総連は「破産者」となる。法律上の要件を満たしているので、安倍総理が決断すればすぐにできる。自民党の長尾敬議員は、金融庁からすぐにも可能である旨の回答を得ている。 破産法は強力だ。朝鮮総連幹部は法の力を思い知る。整理回収機構が破産手続開始の申立てをすると、裁判所は破産手続開始決定(旧法の破産宣告)を行う。そのあと裁判所が選任した破産管財人が資産を調査するが、黙秘権がある警察・検察の取り調べと違い、破産団体役員は質問に正直に答える義務がある。破産法第268条は「説明を拒み、又は虚偽の説明をした者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定めている。
 たとえば破産管財人が、不明朗なカネの流れについて朝鮮総連幹部に質問をしたとする。「そんなこと答えられるか、バカ野郎。共和国の国家機密だ」といった瞬間、説明拒絶で破産法違反となる。「じゃあなんかいえばいいんだろ。宇宙人にあげたんだよ」といえば、今度は虚偽説明の罪となる。正直に答えるか、処罰されるかのどちらかだ。
 刑事事件の場合は、余罪があるとわかっている殺人犯にも黙秘権があり、答えを強要できない。逮捕時と取り調べ開始時に黙秘権を告げる必要がある。黙秘自体は罪に問われない。供述を得られなければ人の命が失われる状況でも例外でない。それと比べると、正直な答えを強要できる破産法がいかに強力かおわかりいただけると思う。
 朝鮮総連幹部の立場からすれば、正直に答えることは「反逆者」となることを意味する。だからといって答えを拒絶して、逮捕されて留置場や拘置所に入れられるのは嫌だ。若いころと違って出世に結びつくわけではない。ブタ箱のなかでは議長様もコソ泥も平等である。答えるも地獄、答えないのも地獄。最悪の状況に追い込まれる。
 朝鮮総連は業務妨害が得意だ。前述のように過去の家宅捜索時には何百人もの構成員を動員して、我が国の警察官にヘイトスピーチを浴びせて威迫した。ところが破産管財人に同じことを行えば、職務妨害の罪で逮捕される。破産法第272条は「偽計又は威力を用いて、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害した者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定めている。もし破産管財人が刑事告訴しないなら、筆者が刑事告発したい。
 破産管財人の調査で、朝鮮総連所有不動産の登記名義人となっている法人が、朝鮮総連と一体である証拠が発見されるかも知れない。そうなれば本部ビル同様、競売にかけることができる。
 破産によって整理回収機構による債権回収はいったん終わる。しかし絶望的な回収作業を続け、多額の人件費を浪費するよりはいい。今のままでは朝鮮大学校の100億円の土地は永久に差押えできない。いつまでも無法を許してはならない。


日本の良心

 破産の案を最初に取り上げたのは山谷えり子議員だった。政策秘書の速水美智子氏に説明したところ、山谷議員はすぐさま金融庁の官僚を呼びだして説明を求めた。このスピード感には驚かされた。山谷議員はその後、朝鮮総連や制裁破り、不審船など、それまでの自民党の体制では十分扱い切れなかった問題も含めて審議する「対北朝鮮総合対策検討プロジェクトチーム」設立を主導し、座長代理に就任した。プロジェクトチームは大物議員のみで構成され、秘書の代理出席を認めない異例の秘密会である。事実上、自民党の北朝鮮政策を決定するところだ。北朝鮮への対応能力が大きく向上した。
 自民党の部会で最初に朝鮮総連破産を求めたのは長尾敬議員である。オピニオン誌に寄稿した論文でも、堂々と破産を主張した。よくぞ火中の栗を拾ったと思った。朝鮮総連潰しは死に物狂いの反撃が予想される。組織の総力をあげて向かってくることは間違いない。長尾議員は拉致問題解決のため、金正恩に日本政府の独自制裁を科す策も推している。選挙区は大阪である。いまもっとも暗殺に近い議員かも知れない。
 メディアでは『夕刊フジ』が最初に取り上げた。平成29年9月11日号の一面トップで「日本独白制裁 朝鮮総連強制解体」と打ち、その後も続報を出した。タブーに立ち向かう姿勢に、ネット上では「勇敢フジ」と称賛する声が沸き起こった。その後も『新潮45』や『正論』が破産を求める筆者の論文を掲載してくれた。保守層に強い影響力を持つ『日本文化チャンネル桜』は、番組で何度も発言させてくれた。海外メディアでは『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』が大きく報じた。
 筆者らは拉致問題関係者の賛同を得て、政府や自民党に破産申立てを働きかけている。拉致被害者家族会前事務局長の増元照明さんが強く推してくれるのはありかたい。また衆議院拉致問題特別委員会の元委員長である中津川博郷氏、『日本文化チャンネル桜』の水島総社長、著名評論家の西村幸祐氏、特定失踪者問題調査会の荒木和博代表も公に推してくれた。いずれもたいへんな影響力を持つオピニオンリーダーであり、大きく弾みがついた。
 一般の方も一生懸命動いてくれている。首相官邸や自民党への破産要請メール送付を呼びかけたところ、大勢の方に協力いただけた。中には毎日送ってくださる方もいて頭が下がる。
 北朝鮮から同胞を救い出そうと、多くの一般国民がなんの見返りも求めずに必死で活動している。これぞ日本の良心だと思う。左翼系のいわゆる「プロ市民」とは全く別種の人たちだ。たとえば筆者が知るある女性は、凄腕トレーダーとして自己資金を運用して活動費を作り、日本のため文字通り東奔西走している。別の初老紳士は洋服店経営で成功して息子に会社を譲った後、社会に奉仕したいと雨の日も風の日も署名活動に立ち続ける。たいへんな時間と労力をつぎ込み、毎週インターネット上の拉致問題啓発番組を作っている人もいる。日本は捨てたものではない。


拉致被害者救出のため必要

 朝鮮総連破産によって拉致被害者を救出できるかも知れない。いったん破産申立てをすれば、「やめてやってもいいんだぞ」と交渉できるようになる。北朝鮮にとって朝鮮総連を守ることは、金正恩のメンツがかかった最重要かつ最優先の課題である。そのため極めて有効な交渉カードになるのだ。
 破産法第218条は「破産手続を廃止することについて、債権届出期間内に届出をした破産債権者の全員の同意を得ているとき」には「破産手続廃止の決定をしなければならない」と定める。債権者が合意するだけで簡単に中止できる。
 北朝鮮側は「破産を途中でやめさせた」ことを金正恩の大勝利と宣伝できる。独裁国の行政はメンツにこだわるので、基本的に途中で何かをやめることはない。北朝鮮の常識で中止はありえないのだ。そのため不可能を可能にしたことになり、国内向けに「日本を屈服させた」といえる。高く売れるカードである。
 拉致問題は、国のトップ同士が会えば解決するような簡単なものでない。交渉カードが必要不可欠だ。「拉致被害者を返せば○○をやめてやる」といえるものが必要になる。なければ作るしかない。「破産をやめてやる」という交渉カードを今すぐ作るべきだ。裁判所に書類を提出するだけでできるのに、やらない手はない。筆者には破産申立てを「していない」ことが不作為に思える。
 ちなみに破産手続を途中でやめれば、整理回収機構は再び直接の債権回収を行うことができる。この点について誤解があるが、破産しても債務は消滅しないし免除もされない。破産と免責は別ものである。免責は個人が対象と破産法で定められており、朝鮮総連のような権利能力なき社団はそもそも対象外である。
 金融庁は国会議員に「破産させると合法的な債務免除になってしまう」という誤解を招く説明をしている。免責と混同させようとしているのかと、疑いたくなってしまう。実際には現状が事実上の債務免除である。100億円の土地はもちろんのこと、朝鮮総連が払っている本部ビルの「家賃」も、職員が使っている高価な機材さえ差押えできていないのだ。闘いというのはダメとわかったら見切りをつけて、次のステップに移るものだ。目的は正義の実現であり、100万円かけて10万円を回収することでない。まさか金融庁は、整理回収機構の朝鮮総連担当者40人強の雇用維持を、国家的課題より優先しているのか? むろん日本政府の一員として許されないことであり、そのようなことは決してないと信じたい。
 もうひとつ誤解されやすい点だが、朝鮮総連を破産させても、取れる見込みのある系列企業からの債権回収は続く。たとえば朝鮮総連の保険会社・金剛保険の債務は本体と別個なので、破産の直接的影響はない。金剛保険は平成29年末、警視庁の家宅捜索を受けている。整理回収機構の申立てを受けた東京地裁が28年12月、金融機関にある金剛保険の預金約1億3000万円の差押えを執行しようとしたところ、約50口座から約8000万円が引き出されていた。資産を移し、差押えの執行を妨害した疑いが持たれている。朝鮮総連破産は組織全体に決定的ダメージを与えるので、隠匿された現金を回収する上でも大いに力を発揮する。
 債権回収の実効性を高めるための法改正については、和田政宗議員が一生懸命研究している。拉致問題解決のため知恵の限りを尽くしてくれる、頼りになる議員の一人だ。和田議員は、破産申立ては「あり得る」との立場だが、まずは直接の債権回収で改善できることがないか探っている。むろん法改正で100億円の土地を取り上げることができれば、それに越したことはない。筆者も和田議員に期待している。しかし残念ながら、そこまで劇的な法改正はなかなか難しいように思える。仮に可能だとしても、劇的法改正が理解を得られるまで相当な時間がかかってしまう。拉致問題は時間との戦いだ。いますぐ実現できる方策が求められている。
 朝鮮総連への破産申立ては、拉致被害者救出の阻害要因除去のためにも必要だ。北朝鮮が拉致被害者を返さないのは、簡単にいえば日本を甘く見ているからだ。「放っておけば日本は拉致を言わなくなる」と分析しているのだ。原因を作っているのは日本だ。
 北朝鮮の視点から見るとわかりやすい。朝鮮総連は910億円の支払い命令を無視しているのに、本部ビルに居座り、100億円の土地を堂々と所有できている。日本を甘く見るのは当然ではないか。北朝鮮が日本に向ける主要な関心は「カネ」である。そのカネに関わることで侮りを受ける行動をとれば、すべてについて侮られる。バカにされることをすれば、バカにされるのだ。北朝鮮から見れば、1兆3453億円もの大金を巻き上げられて破産申立てひとつしない国が、拉致被害者救出を諦めない「はずがない」。筆者が北朝鮮の分析担当者でも同じ結論を出していたかも知れない。我が国が送っている誤ったメッセージが、拉致被害者の帰国を妨げている。一番弱い立場の同胞が犠牲になっている。
 破産申立ては「今までの日本と違うぞ」という強烈なメッセージとなる。真の交渉はそこから始まる。


売国議員が戻り出される

 朝鮮総連の破産は、我が国の政治を根底から変える可能性がある。戦後70年以上たって、やっと「国を売ることはいけない」という当たり前の常識が通用する国に生まれ変わるかも知れない。
 朝鮮総連の政界工作について、張龍雲氏は次のように書く。

 多くの日本人政治家は朝鮮総連によって手なずけられている。旧社会党の幹部や書記長クラスは当然のこととして、朝鮮総連はかなりの国会議員に賄賂を贈るように指示している。そして実際贈ったすべての国会議員が受け取ったといわれている。(『朝鮮総連工作員』)

 むろん国会議員が朝鮮総連からカネを受け取ることは、政治資金規正法違反の犯罪だ。決定的な弱みを握られることを意味する。
 仕掛ける側は弱みを握ることも目的なのだから、当然証拠を残しているだろう。カバンや壁の1ミリ程度の穴から動画撮影するための「ピンホールレンズ」は数万円で買うことができる。実は筆者も、友人の中国民主派活動家にプレゼントするため専門店で買ったことがある。画像は鮮明だった。
 破産申立ての話が盛り上がれば、朝鮮総連は子飼いの議員に「何が何でも潰せ!」と指令を出す。すると取ってつけたような理由で「破産は日本の国益に反する! 絶対にダメだ!」と主張しだす議員が次々と現れる。中にはもっともらしい理由が思いつかず、泣いてみせる議員も出るだろう。「自分は朝鮮総連にこれほどまで同情する心優しいイイ人なんです!」という猿芝居である。民主党政権時に、朝鮮学校への公的資金役人を進める理由を問い質され、泣いてみせた議員がいた。この議員の場合は鳩山由紀夫首相の歓心をかうことが目的だったようだが、いずれにせよ腐臭が漂う。
 そして破産が実現したとき、朝鮮総連は「この役立たずの詐欺師め!」と激怒して、秘密を全部暴露するだろう。売国議員がペコペコ頭を下げながら札束を受け取ったり、変態プレイに興じたりしている隠し撮り動画が、毎週のようにお茶の間を賑わせたら面白い。政界は蜂の巣をつついたような大騒動になる。辞職する議員が次々と出るだろう。逮捕者だって出る。憲政史上最大の事件になるかも知れない。
 大歓迎である。心からやってほしいと思う。売国議員を葬ることに関しては、破産後の朝鮮総連と日本国民は完全に利害が一致する。北朝鮮に国を売るような議員は、中国にだって売っているだろう。中国のスパイも同時に排除できるのだ。
 我が国に計り知れない災厄をもたらした朝鮮総連だが、最後に一つだけ良いことをさせようではないか。


スパイ防止法制定を後押し

 破産申立てで朝鮮総連が示す激烈な反応は、これまで難しかった施策の実現や法改正、新法制定を導く。国民が朝鮮総連の真の姿を知ることで、対策を求める世論が澎湃として起きるだろう。目を覚まさせてくれるのだ。
 まずは山田賢司議員が提唱しているテロ資金提供処罰法の改正である。内容としては、拉致や核・ミサイル開発等の北朝鮮当局による特定有害活動を容易にする目的で、資金または実行に資するその他の利益(土地、建物、物品、役務その他)を提供した一次協力者(朝鮮総連)を厳しく処罰するとともに、一次協力者の北朝鮮支援を容易にする目的で利益を提供した二次協力者も、その他の協力者も厳しく罰する改正案である。
 山田議員の改正案をぜひとも実現する必要がある。実は朝鮮総連を破産させても、「第二総連」「新生総連」といった後継組織の設立は阻止できない。憲法第21条で保障された結社の自由があるからだ。二の矢、三の矢が必要だ。
 筆者が破産を提唱するのは、もっとも実現が容易だからだ。というより、いまだ破産「させていない」ことが逆差別なのだ。日本人の組織が朝鮮総連と同じことを行えば、破産申立てはおろか、あらゆる法令を駆使して徹底的に取り締られていたことは間違いない。破産は、逆差別をやめるだけの簡単な話だ。
 残念ながら、山田議員の改正案が実現するほど世間の理解は深まっていない。そこで一番ハードルの低い破産申立てを最初に行い、朝鮮総連の激烈な反応を報道で国民に知ってもらい、法改正の世論を盛り上げる2段階方式が現実的である。
 同様に松原仁議員が提唱する、朝鮮総連幹部を反社会的勢力と規定して金融取引等から排除する策も強力だが、すぐに実現できる状況にない。やはりまずは破産申立てである。
 売国議員が次々と暴かれ、朝鮮総連構成員が暴動を起こせば、スパイ防止法の必要性も広く認識されるだろう。いまは一部の教養ある層が求めているだけだ。ある国会議員にスパイ防止法の話をしたら、「平和安全法制でアレだもん。難しいよ」と言われたことがある。確かにスパイ防止法制定は現状では厳しい。
 北朝鮮の金王朝が崩壊しても、中国の脅威が無くなるわけではない。我が国はこれから国家存亡の機に直面する。敵国のスパイを排除できるかどうかに国家の生死がかかっている。朝鮮総連を破産させ、スパイ防止法制定を実現すべきだ。日本をチベットやウイグルにしてはならない。


あとがき

 平成14年のお誕生日に際して、皇后陛下におかせられましては拉致被害者や家族への思いを発表あそばされた。

 悲しい出来事についても触れなければなりません。
 小泉総理の北朝鮮訪問により、一連の拉致事件に関し、初めて真相の一部が報道され、驚きと悲しみと共に、無念さを覚えます。何故私たち皆が、自分たち共同社会の出来事として、この人々の不在をもっと強く意識し続けることが出来なかったかとの思いを消すことができません。今回の帰国者と家族との再会の喜びを思うにつけ、今回帰ることのできなかった人々の家族の気持ちは察するにあまりあり、その一入の淋しさを思います。

 16年後の平成30年のお誕生日に際しては、次のように述べあそばされた。

 陛下の御譲位後は、陛下の御健康をお見守りしつつ、御一緒に穏やかな日々を過ごしていかれればと願っています。そうした中で、これまでと同じく日本や世界の出来事に目を向け、心を寄せ続けていければと思っています。例えば、陛下や私の若い日と重なって始まる拉致被害者の問題などは、平成の時代の終焉と共に急に私どもの脳裏から離れてしまうというものではありません。これからも家族の方たちの気持ちに陰ながら寄り添っていきたいと思います。

 「かたじけなさに涙こぼるる」とはこのことだろう。
 皇后陛下のお心を安んじ奉ることができず、救出運動に関わる者として慙愧に堪えない。とにかく打てる手をすべて打つ必要がある。その中でも朝鮮総連への破産申立ては、今すぐできるうえ効果抜群の策で、なんとしてでも実現したい。ご賛同いただける方は、首相官邸ホームページの「ご意見・ご感想」から総理宛に破産申立て要望をお送りいただけるとありかたい。文章は1行で十分だ。1分で送信できる。国民の支持は、総理が決断を下すための大きな力となる。
 最後に本書の執筆にあたり、時代のタブーに立ち向かう出版社・展転社の藤本隆之社長と荒岩宏奨編集長にたいへんお世話になった。心から御礼申し上げたい。
  平成30年10月   加藤 健


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