バカの国

本書の帯には「おいおい日本、大丈夫か」と書かれていますが、同感です・・・。

バカの国

 百田さんが紹介するバカの言動やそれと似たような話は少なからず見聞きします。「馬鹿だね・・・」と笑って済むようなことならどうってことはないのでしょうが、こんな日本のままで大丈夫なのか?、と心配になるようなことが少なくないのが現状だと感じます・・・。

 百田尚樹さんの「バカの国」を紹介するために、以下に目次や目を留めた項目をコピペさせていただきます。
 興味が湧いて、他も読んでみたいと思ったら、本書を手にしていただければと思います。

バカの国 百田尚樹

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バカの国 (新潮新書) [ 百田 尚樹 ]
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目次

 怒りの長い長いまえがき 3

第一章 クレーマー・バカ 24
 1 何でもかんでもクレーム 25
 2 「弱者のため」を装うクレーマー 35
 3 そのクレームは誰のため? 48

第二章 やっぱりSNSはバカ発見器 74
 1 自己顕示欲の化け物 75
 2 暴走するスマホ 83

第三章 世にバカの種は尽きまじ 90
 1 ただひたすら迷惑なバカ 91
 2 プロ意識のないバカたち 119
 3 理解不能なバカ 141

第四章 血税を食べるバカ 150
 1 生活保護を悪用する人たち 151
 2 税金を狙う人たち 165

第五章 公務員の楽園 175
 1 役人と書いてバカと読む 176
 2 モラルのないバカ 200
 3 地方議員のバカ 236
  


怒りの長い長いまえがき

  この本は有料個人サイト「百田尚樹チャンネル」の会員向けに配信しているメールマガジンの文章に加筆・修正してまとめたものです。
 二〇一五年からやっているそのサイトは月三回の生放送と動画配信がメインですが、それとは別に、毎週、「ニュースに一言」と題して、その週に起こった様々なニュースに対して、私なりの解説を加えた文章を皆様に配信しています。取り上げるニュースは、政治や経済のこともあれば、国際関係のこともあり、かと思えば、笑える三面記事もあれば、エロネタもありと、何でもありのごった煮です。毎週、原稿用紙にして十枚以上を書いています。これまでに書いた記事の数も千を優に超えています。
 前作の『偽善者たちへ』は、その中から「偽善」をテーマに書いたものをまとめましたが、今回は「バカ」をテーマにまとめてみました(各記事の最後に付けられた日付はメルマガの配信日です)。
 今回、改めて過去記事を読み直したのですが、そこに出てくるバカの多いこと多いこと。まさにバカのオンパレードです。最初はバカが登場するたびに爆笑していたのですが、だんだんと笑えなくなってきました。「おいおい日本、大丈夫か」という気になってきたのです。それくらいこの国には信じられないバカが大勢いるのです。もちろん私もその一人かもしれません。ですから書いていて、自らを省みる点もいくつもありました。
 しかし一方で、私など足元にも及ばない「真正のバカ」も沢山いました。いや単なるバカとは言えない、実は人間として終わっているのではないかと思えるバカもいました。
 また役人や政治家の中には、「税金に巣くう寄生虫」かと思えるようなひどいバカも大勢いました。さすがに書いていて気が滅入ってきましたが、これも日本の現状です。どうやらこの国は「バカの国」になったと言えそうです。
 ……と、ここまではどちらかと言えばお気楽な感じに書き、ま、こんなものだろうと脱稿したところ、とんでもないニュースが日本を襲いました。中国発の新型コロナウイルス感染症です。そこで、いったん脱稿したまえがきに、長い加筆をすることになりました。

     *

 一月の中旬に日本に新型コロナウイルスが上陸すると、二月に入って感染者が一気に増えました。三月に入ると、学校は休校、様々なイベントやコンサートは自粛、プロ野球のオープン戦や大相撲は無観客開催となりました。春の風物詩のひとつである選抜高校野球も中止となりました。私が構成しているテレビ番組「探偵!ナイトスクープ」も三十二年やってきて初めて無観客収録となりました。講演も全部なくなりました。今これを書いている時点(三月中旬)では、今後どのように感染が拡大、もしくは収束するかはわかりませんが、非常に緊迫した状況です。
 ところで、私が何よりも呆れたのは、この新型コロナ肺炎に関連する騒動で驚くほどのバカが次々に現れたことです。あ、その前に「新型コロナ肺炎」などという呼び方はしっくりきません。中国の武漢発ということで、以下、「武漢肺炎」と呼ぶことにします。

 武漢肺炎にまつわる一番のバカは政府です。
 お隣の中国で未知のウイルスによる感染者が大量に出ているにもかかわらず、政府の態度はまるで対岸の火事でも眺めているような感じでした。一月二十三日、中国政府は感染拡大を防ぐために、人口一千万人規模の都市である武漢を封鎖するという非常手段に出ました。幹線道路の封鎖と同時に、電車とバスの公共交通をも止めるという徹底ぶりです。実は私はその前から、これは大変な事態だと感じ、武漢封鎖の前日にあたる二十二日に、ツイッターでこう書いています。
 「中国からの観光客は一時ストップするべきと思う。国と国民の命を守るとはそういうこと。経済的には打撃で、一部の業者は悲鳴を上げるだろうが、もし病気が大流行したら、国の打撃のほうがはるかに大きい」
 ちなみに私はそれ以降、連続してツイートしています。いくつか抜粋します。
 「日本は対応を誤ると甚大なダメージを被る」(一月二十四日)
 「カミュの『ペスト』は、ペスト発生により封鎖された都市の中で生きる人々を描いた小説だ。これは一種の寓話だが、今それと同じことが中国で起こっている」(同日)
 「もし東京で一%の人が新型肺炎に罹患したら一〇万人。その時は、東京の都市機構は麻輝する。もちろん経済もガタガタになる。(中略)それがわかっている大臣や国会議員がいないのが、私たちの不幸」(一月二十五日)
 「今回の日本政府の対応は、まったくダメ! 安倍政権の危機管理能力はゼロに近いことが露呈した。もちろん野党もメディアもだ」(同日)
 しかし当然ながら私の警鐘は政府には届かず、日本政府は何のアクションも起こさないまま、春節で大量の中国人観光客が来日しました。その後は湖北省、続いて浙江省からの入国を止めましたが、他の地域からはフリーパスの状態が続きました。いったい国民の命をなんだと思っているのでしょうか。これは単なるバカでは済まされません。それなのに、加藤勝信厚生労働大臣は約一ヶ月後の二月二十五日の記者会見で「引き続き先手先手の対応を進めていきたい」とドヤ顔で言っていました。どうやら「先手」の意味がまるでわかっていないようです。

 二番目のバカは、今回も国のことより政府を攻撃することだけに夢中の野党です。
 国内で感染が確認された一月、なんと国会では武漢肺炎に対する質問はほとんどなく(質問の大半は前年から続けている「桜を見る会」についてでした)、政府の無対応を非難する声はまったく上がりませんでした。それなのに、三月に入ると、野党は一斉に「政府の対応が遅い!」と非難する始末です。ちなみに立憲民主党の福山哲郎幹事長は、三月に入ってからも、国会質問では執拗に「桜を見る会」の質問を続け、呆れたことに「時間が余れば、コロナ対策もやります」と言いました。彼にしてみれば、武漢肺炎など、「余った時間」にやる程度の問題のようです。同じ党の石垣のり子議員は一月二十九日の国会質問で、「新型肺炎ウイルスや自衛隊の中東派遣などの問題を質疑するところではありますが ―― 」というようなことを前置きしながら、質問自体は「桜を見る会」ばかりでした。ちなみに共産党などは、一月二十七日から三十一日までの五日間、合計二時間三十六分の質問時間の中で、武漢肺炎に関する質問は三分しかありませんでした(約一・九パーセント)。彼らは武漢肺炎などはどうでもいいと思っていた確たる証拠です。
 国民民主党の原口一博国会対策委員長は、二月二日に「巨大な人口をようする隣国で『町を封鎖する』という事態に直面した時、まともな政治家ならば、その国からの渡航を直ちに全面停止する」と、さも危機管理の専門家のようなツイートをしていましたが、武漢が封鎖された当日の彼のツイートは、「桜を見る会」に関するものばかりで、武漢封鎖に触れたツイートはひとつもありませんでした。
 また立憲民主党の蓮舫議員は、三月九日の国会で「中国・韓国の入国制限の科学的根拠は?」と政府の対応を非難するような質問をしていましたが、私か政府に代わって彼女に申し上げたい。未知のウイルスに対して、科学的根拠など示せるはずもありません。だからこそ、感染防止に効果があると思われることを先んじてやるのが危機管理です。  野党議員の「後出しジャンケン」とイチャモンにはうんざりです。

 三番目のバカはメディアです。  一月半ばの時点で、武漢肺炎の危機に警鐘を鳴らしたメディアはほとんどありません。朝日新聞などは、一月二十四日(武漢封鎖の翌日)の夕刊の「素粒子」というコーナーで、「中国人を排除するより、ともに手を洗おう」と間の抜けたことを言っています。テレビに出る医者やコメンテーターの中には、「インフルエンザよりも怖くない」「マスクなんかいらない」という信じられないコメントをする人が多数現れました。中には「武漢でジョギングはあり」と、楽観的なイメージを与えるようなツイートをする感染症の専門家もいました。
 また評論家の中には、中国人観光客の入国を止めたりすれば、日本の観光業界が経済的に大きなダメージを受けると発言した人もいました。「中国人観光客を止めろという人は、それが原因で倒産したホテルに寄付をできるのか」と言った人もいました。しかし結果的には、三月に入って日本はそれ以上の経済的ダメージを被ることになりました。
 すると、野党の連中と同じく掌を返したように、「新型コロナ肺炎の対策がなっていない」「危機感が薄い」と政府を非難するメディアやコメンテーターが次々に出てきました。彼らは一ヶ月前の自分たちの発言さえ覚えていないのでしょうか。
 さらに呆れたのは、感染者が増えた三月以降、「国民は全員が検査を受けるべきだ」というキャンペーンを張るテレビ局がいくつも現れたことです。重い症状でもないのに「不安だから」というだけで検査を受けると、膨大な数の偽陽性判定者が現れ、病院に患者が溢れかえって医療崩壊という最悪の事態が起こります。あらためてテレビ局員の知性と節度の無さに唖然とさせられました。もっとも検査を抑制しすぎると、感染者が街を歩き回るという事態も起こるのですが、現時点においては検査を広げるのは極めて危険です。イタリアや韓国の医療崩壊はこれが原因のひとつです。
 メディア関係で最もぞっとさせられたのは、三月十三日の朝日新聞の編集委員のツイートです。
 「あっという間に世界中を席巻し、戦争でもないのに超大国の大統領が恐れ慄く。新コロナウイルスは、ある意味で痛快な存在かもしれない」
 アメリカ大統領さえ恐怖に怯えているのを、彼は痛快と言ったのです。誰が不幸になろうとも事件が起これば嬉しいという朝日新聞社の本音が出たのかもしれません。こういうのが編集委員をやっているのですから、私たちが恐れ慄きたくなります。

 四番目のバカは、地方自治体の首長たちです。
 お隣の中国が困っているからと、自治体が緊急用に備蓄している防護服やマスクなどを大量に中国に寄付する知事が次から次へと現れました。東京都もまた緊急用に備蓄していた防護服を三十万着以上送りました。私の住んでいる兵庫県も、二月十日に、県が緊急用に備蓄していたマスク百二十万枚のうち百万枚を寄付しました。その時点で、多くの市民はマスクが手に入らず、また県立病院でもマスク不足で困っているところがあったにもかかわらずです。
 地方自治体とは違いますが、自民党の二階俊博幹事長は党員に対して、「五千円を中国に寄付しろ」という号令を掛けました。寄付の意味もよくわかりませんが、その金額が五千円というのが何とも微妙で苦笑させられます。隣人を助けるのは結構ですが、まずは自分の身を守ってからのことでしょう。彼らはとんでもない偽善的バカです。

 五番目のバカは、マスクが市中から払底したのをチャンスと見て、ネットなどで、目の玉が飛び出るくらいの金額で転売した輩です。
 中には最初から転売目的で大量に買い漁ったとしか思えない奴もいます。また呆れたことにネットオークションで九百万円近くを売り上げた県会議員もいました。彼らは単なるバカではありません。むしろ「卑劣」「クズ」と呼ぶのがふさわしいかもしれません。

 そして六番目のバカは、ほかならぬ私たち国民です。
 政府、野党、メディアに対して、非難の声をほとんど上げることなく、「どうせたいしたことにはならないだろう」とたかをくくり、のんびりと構えていたのです。いつもならすぐにデモをやるプロ市民や活動家もまったく動きませんでした。
 国民の多くが「たいしたことにはならないだろう」と考えたのは、「正常性バイアス」がかかったからです。人は大きな災害が予測される事態になっても、「そんなにひどい事態にはならないだろう」と勝手にいい方に補正しようとする意識が働き、実際よりも被害を小さく予想してしまいます。これが「正常性バイアス」と呼ばれる心理で、主に災害心理学で用いられる言葉です。昔から地震や台風にしょっちゅう見舞われてきた日本人は、この正常性バイアスが強いと言われています。一種の生活の知恵なのでしょうが、今回は、それが完全に裏目に出たようです。
 実際、私が一月二十二日以降、連日ツイードで「武漢肺炎の脅威」を訴えていると、多くの匿名の人から「騒ぎすぎだ」というリプライをもらいました。それで二十五日に、私はこんなツイートをしています。
 「私が新型肺炎の脅威を書き、政府の無策を書くと、『大袈裟に言うな。煽るな!』というリプをもらう。中には『新型肺炎について何を知っているのだ』と言う者もいる。たしかに私は専門家ではない。しかし作家の勘で、今回はとんでもない事態だとわかる。この勘が外れて、私かバカにされることを祈る」

     *

 政府はようやく三月になってから、発生源である中国からの入国を実質的に止めましたが、遅きに失した感が否めません。前述のとおり、学校の休校、企業のテレワーク、イベントや宴会やコンサートの自粛、大相撲の無観客開催と影響がどんどん拡大し、また飲食店も閑古鳥が鳴いています。もしこのまま感染拡大が収まらなければ、その経済的損失は想像もつかない額になるでしょう。
 一月の時点で中国からの渡航を止めていたとしても、はたして感染が防げたかどうかはわかりません。しかし政府が真剣に取り組む姿勢を打ち出せば、メディアも野党も国民も危機意識を強く持ち、感染防止にはそれなりの効果が出たはずです。
 私は常々、「平時であれば、政治家なんて誰でもやれる」という持論を持っています。というのは、日本人は民間の人々のレベルが非常に高いからです。また官僚も“マニュアル”で解決できる問題には恐ろしく強く、たいていの事態には対応できる能力があります。
 国会は立法府と言われていますが、実際に細かい法律を文章化して整えるのは官僚の仕事です。内閣を構成する各大臣は、自分が長であるにもかかわらず、それぞれの省のことなどろくに知りません。国会での質問に答えるときも、官僚の用意した答弁書を読み上げるだけです。そんな楽な仕事にもかかわらず、誰が聞いても呆れるようなことを言ったりしたりする大臣はいくらでもいます。スキャンダルや失言で解任される大臣の多いこと多いこと。私は国会議員や大臣を何人も直接知っていますが、民間企業へ行けば、間違いなく三流社員として扱われる、あるいは窓際に追いやられるはめになるであろう人は珍しくありません。中には優秀な人もいますが、平均すると、民間の優秀な人よりははっきり落ちます。それなのに、なぜ日本という国が回っているのか ―― その多くが民間と官僚の力によるものです。そう、平時であれば、政府や国会などなくとも、私たちの生活はたいして困りません。
 私は政治家というものはオーケストラの指揮者のようなものだと思っています。楽団員は国民です。下手くそな楽団員ばかりだと、指揮者が優秀でなくてはどうしようもありません。指揮者が的確に指示を与えなければ、楽団員はどのタイミングで音を出せばいいのかもわからないでしょう。しかしレベルの高い優秀な楽団員が揃っていれば、別に指揮者などいなくても音楽は演奏できるのです。ところが指揮者が絶対に必要な場面があります。それは思わぬ事態が起きた時 ―― たとえばオペラなどで、歌手が間違えたり、記憶が飛んだりした場合です。混乱に陥ったオーケストラを素早く立て直すのは、優秀な指揮者でなければできません。
 国の舵取りも同じです。日本の国民はオーケストラにたとえると非常に優秀な楽団員です。指揮者が少々ボンクラでも見事に演奏します。しかし何か非常事態が起きたときはそうはいきません。そのときこそ優れた指導者の的確な指示が必要なのです。戦争になったり、大災害がやってきたり、あるいは未曾有の経済危機に見舞われたりしたとき、政府の的確な指示がなければ、国民は動けません。そのときに必要なのは、果断に決断できる政治家です。
 そうなのです。政治家は国家の危機や緊急事態にこそ力を発揮するべき存在なのです。
 今回の武漢肺炎の発生は、まさしくそんな状況でした。隣国で未知のウイルスが発生し、ワクチンも治療法もなく、医療崩壊が起こるくらいの感染者と死亡者が出たという状況を前にして、まず行なうべきは、この謎のウイルスを自国に入れないということです。これは基本中の基本です。
 識者の中には「入国を止める法的根拠がない」としたり顔で言う人もいました。国民の命がかかっている緊急事態に法的根拠もくそもあるかと思いますが、実は「出入国管理及び難民認定法」の五条一項十四号には、日本に上陸できない外国人として、「法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」とあり、日本政府が本気でやるなら、感染患者が含まれている可能性が高い外国人の入国を拒否できるのです。
 結局、日本政府が動かなかったために、春節の大移動で、一月の終わりから大量の中国人観光客が入国しました。おそらくかなりの感染者がいたはずです。その結果、日本にも多くの感染者が出ました。
 その間、日本政府が取った対応策は、感染者を入国する際に食い止めるという「水際作戦」です。その内容は驚くべきもので、中国からの入国者に対して、「発熱があるか自己申告をしてください」という質問票を配布し、発熱があると申告した人を調べて、感染がわかると、入国しないでくださいとお願いするというものです。私はこれを聞いて唖然としました。言うまでもありませんが、せっかく時間とおカネをかけて日本に来た中国人観先客が、「実は私、熱があります」「武漢にいたので、新型コロナウイルスに感染しているかもしれません」などと正直に言うはずがありません。サーモグラフィー検査もあったようですが、そんなものは解熱剤で簡単にすり抜けられます。この「水際作戦」を考えたのは、どんなバカかと思いました。
 日本と真逆の対応を取ったのは台湾です。観光も含めて中国への依存度が高い台湾ですが、蔡英文総統は「中国からの入国の全面停止」を含む断固とした措置を矢継ぎ早に取りました。しかも違反する者には厳しい罰則まで付けました。現時点で台湾が世界の国の中でも感染者の少ない国となっているのは、そのおかげでしょう。
 一方、日本は感染者が出てからも、政府はなかなか動きませんでした。二月から三月にかけて政府がやったことは、学校への休校要請、また企業へのテレワークの要請、大勢が集まるイベントや宴会の自粛要請、国民への不要不急の外出を控えるようにという要請などです。たしかにこれらは感染拡大に対しては防止効果が見込まれます。
 しかし呆れたことに、その時点で中国の観光客は湖北省と浙江省を除いてはまったく止めていなかったのです。これは船底に開いた穴から浸水しているのに、バケツリレーで排水しているようなものです。排水は大事ですが、まずは穴を塞ぐことでしょう。私は今回の政府の対応を見て、「なんという危機管理能力の低い政治家が集まっているのか」と呆れました。危機管理では、常に最悪の事態を想定して動かなければなりません。そして初動の対応が非常に重要です。国民の命がかかった問題においては尚のことです。
 政府のこれはどの無策にもかかわらず、三月中旬現在、日本は世界の国々と比べて、感染者はそれほど多くはありません。数字だけを見て、「政府はよくやっている」と評価する保守論客もいますが、日本に感染者が少ないのは、街や家の衛生状態がいいことと医療体制が充実していることに加え、国民が節度を守って病院に殺到しないことで医療崩壊を防いでいるからです。敢えて言えば国民の民度に助けられています。
 もしかしたら結果的には、武漢肺炎は日本に深刻な打撃を与えることなく収束するかもしれません。そうなってほしいと願っていますが、仮にそうなったとしても、私の現政府に対する不信感は拭えません。
 将来、もっと恐ろしいウイルスが他国で発生した場合、はたして日本がその危機に立ち向かえるのか心配です。ウイルス以外でも、仮に日本にどこかの国が軍事行動を起こした場合、政府は即座に動けるのかという不安も消えません。嫌な讐えをしますが、ある国の軍艦が何隻も日本に向かってくる、あるいは大量のミサイル発射準備を行なっている、という情報を政府が掴んだとき、はたして果断に対応できるのでしょうか。今回の事態は、図らずも日本という国の弱点が出てしまったと感じるものでした。特に中国・韓国・北朝鮮の三国は、それを冷静に分析していることでしょう。
 こういうことを書くと、またまた「煽るな」「騒ぎすぎだ」「根拠なく発言するな」といった声が聞こえてきそうです。前述したように、一月末に私か武漢肺炎の脅威と政府の無策についてツイートした際も、そのようなリプライをたくさんもらいました。今この文章を書いているのは三月の半ばです。もしかしたらこの本が出版される四月の下旬にはすっかり収束しているかもしれません。その時は皆さん、大いに私を嗤って下さい。いや、私はそうなることを願っています。
 ただ、それでも忘れていただきたくないのは、この一月から三月にかけてのバカな失策の数々のせいで、大きな被害が発生してしまったということです。亡くなった方や重症化した方もいます。倒産した企業もあると聞きます。学校の卒業式や春の高校野球をはじめ、一生に一度のイベントがなくなった人もいます。また何より、医療関係者や教育関係者など現場の最前線で働く方々はとてつもない苦労を強いられています。仮に収束したとしても「よかったよかった」で終わらせては絶対にいけません。
 政治家やメディアや国民は、今回の失敗を糧や教訓にして、正しい危機意識を持ってほしいと思います。同時に、このまえがきで挙げたバカどもには全員深く反省してもらいたいものです。
            百田尚樹
  令和二年三月二十日


第一章 クレーマー・バカ<書き出し>

  現代の日本に増殖しているバカのひとつに「クレーマー」があります。
 彼らは自分が気に入らないことなら、どんなことにも文句を言います。そして自分の要求を通そうとします。おそらくそれが自らの権利だと思っているのでしょうが、それらは権利でもなんでもありません。ただのワガママかイチャモンです。
 彼らはまるで、自分の要求は何でも通ると信じ込んでいる独裁国家の帝王のように見えます。しかし現実の彼らは帝王でも権力者でもなんでもなく、多くは私たちと同じ普通の市民です。それだけに、彼らの心の中に「暗愚の帝王」に似た全能感が潜んでいることが気味悪いのです。
 心理学的には様々な分析ができる人たちなのでしょうが、私は一言、「バカ」と呼ばせていただきます。

 1 何でもかんでもクレーム
  盆踊りは静かに?
 花火と並ぶ夏の風物詩といえば盆踊りです。しかし、最近は地域のお祭りを騒音と感じる人もいて、その対策として、踊り手がイヤホンで音楽を聴きながら踊る「無音盆踊り」が登場したというニュースがありました。
 イヤホンの付いた携帯ラジオを持参し、FM電波で同じ曲を聴きながら踊るというものです。なるほど、これなら近隣の住民たちにも騒音にならないので、万事めでたしめでたしなのでしょうか。
 夏の夜、歌も音楽もない無音の中で、大勢の人々が黙々と踊っている様は、ある意味、ホラー映画のシーンですよ。たまたま帰宅途中の人が通りがかりにこの光景を見たら、恐怖に震え上がると思います。とくにずっと黙って踊っている人たちが一斉に「あら、ヨイヨイ」などと声を上げたなら、私なら走って逃げます。
 踊っている本人たちはイヤホンから聴こえる音楽に合わせて気持ち良く踊っているのでしょうが、盆踊りは櫓の上で太鼓を叩きながら賑やかに踊るから盛り上がるのであって、そうまでして踊らなければならないものなのかと思ってしまいます。
 盆踊りなんて毎日踊るものではありません。一年に一度、それもせいぜい二、三時間程度のものです。にもかかわらず文句を言う人がいるのです。「訴えるぞ」「騒音は人権侵害だ」と強硬に言われると、自治会も引かざるをえないのだと思います。
 この件に限らず、最近は個人を優先するあまり地域のコミュニテイがないがしろにされる傾向が強くなっています。小学校の運動会の練習さえもうるさいとクレームをつけられることがあるそうです。本来地域の子供たちの元気な声は微笑ましくはあっても耳障りとはならなかったはずなのに、それだけ人々の心に余裕がなくなったということかもしれません。
 そのうち花火の音もうるさいと言われる日がくるかもしれません。
 日本の技術をもってしたら、無音花火を作ることも可能かもしれません。でも、無音の夜空に突然、パーつと花火が光るのは、少し気味悪い感じがします。で、その花火を見て歓声を上げれば、たちまち「うるさい!」という抗議の声が殺到するので、観客はそれを無言でじっと見つめます ―― おお、想像するだけで嫌です。  (2015/08/21)


第二章 やっぱりSNSはバカ発見器<書き出し>

 世はSNS(ソーシヤル・ネットワーキング・サービス)が花盛りです。簡単に言えば、会員向けのサイトに発信できるネットシステムです。会員と言っても、料金無料で誰でも入れて、会員同士が直接やり取りできるものも多く、しかも匿名も可能です。
 有名なSNSでは、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどがあり、今や若者のほとんどが上記のいずれかをやっていると言っても過言ではないでしょう。中には全部をやっている人もいるでしょう。
 しかしこのSNSのお陰で、これまでの社会では世に出ることがなかった「バカ」が大量に発掘されるようになりました。いや、発掘は正しい表現ではありません。これらの新種のバカは、自ら穴の中から這い出てきたのですから。
 いまやSNSの別名は「バカ発見器」です。

 1 自己顕示欲の化け物
  画面の中の露出狂
 便利な機能が出来ると必ずそれをよからぬことに使う輩が現れるのは困ったものです。スマホで写真を共有できる機能を使い電車内で近くの乗客にわいせつ画像を送り付けたとして、大阪府警堺署に四十五歳の会社員の男が府迷惑防止条例違反容疑で書類送検されました。この男は女性の恥ずかしがる表情を見るために、電車内で二〇一七年末ごろから週二~三回のペースで米アップル社のデータ共有機能「AriDrop」を使っていかがわしい画像を送っていました。
 私はこのニュースで初めて知りましたが、この機能は、相手のアドレスがわからなくても、受信OKの選択をしている機器には一方的に画像を送れるようです。ところがその日はお目当ての女性ではなく、そばにいた三十六歳の男性のスマホに画像が飛んでいってしまい、驚いた男性が不審な動きをしていた男のスマホを確認し問い詰めて犯行を白状させました。
 男は半年以上画像送りを続けていましたが、どれだけ気に入って狙いをつけた女性でも受信不可のスマホでしたらどうしようもありません。いままでも毎回成功していたわけではないでしょうが、今回は正義感の強い男性がそばにいたことが運の尽きでした。
 痴漢といえば直接的に身体を触ったり、自らの物を見せ付けたりするものがほとんどでしたが、ついにこの分野にもIT化の波がやってきたようで、よくもまあ、これだけ次から次へと手を替え品を替えハレンチ事件が続くものです。まさに「世に変態の種は尽きまじ」です。  (2018/09/10)


第三章 世にバカの種は尽きまじ<書き出し>

  新聞を読んだりテレビを観たりしていると、つくづく思うのは、「世の中には、なんでこんなにバカが多いのか」ということです。もう本当に呆れかえるくらいです。
 私も小説家の端くれですから、三面記事に登場する「呆れた人たち」の心理や感情を理解しようと努めます。ところが、いくら考えても、彼らの思考回路を辿ることができないのです。実は理解できないものほど怖いものはありません。こういう人たちが私たちの周りに生息しているということは、実に不気味なことです。
 つまり最初は笑っていても、しばらく時間が経つと、ホラーにも思えてくるのです。

 1 ただひたすら迷惑なバカ
  鉄道好き
 愛知県警が器物損壊の疑いで男を逮捕したというニュースがありましたが、それをよく読むと、呆れて、しばらくポカーンとなりました。
 男性の容疑は東海道新幹線の線路に侵入するために有刺鉄線などを切断したというものです(器物損壊罪)。ただ、防音壁までしか近づけず、線路へは侵入できなかったので、新幹線の運行には支障がなかったということです。
 さて、男性はどんな目的で新幹線の線路に侵入しようとしたのでしょうか。その動機が驚きです。なんと、「電車が好きで中に入って線路の石で遊びたかった」というのです。
 男性は三十七歳です。三歳でも七歳でもありません。
 いや、七歳でも線路で遊んではいけないことくらい理解しています。いったいこの男性の頭の中はどうなっているのでしょう。
 この男性はもしかしたら「鉄ちゃん」と呼ばれる鉄道マニアだったのかもしれません。一部の「鉄ちゃん」の思考回路は一般人には理解不明です。おかしな「鉄ちゃん」は列車の進行を妨害することもあります。駅のホームで撮影場所をめぐって喧嘩をするのもしょっちゅうですし、いい写真を撮りたいために、邪魔な木を切ったり、ひどいときは電信柱を切ったりもします。
 この男性が本当に「線路の石で遊びたかった」のかどうかはわかりません。もしかしたら別の理由があって、それをごまかすためにそう言ったのかもしれません。しかし、三十七歳の大人なら、もう少しましな言い訳を考えてもらいたいものです。
 いや、実はそれは言い訳なんかではなく、本当に線路で遊びたかったなら、もう私には何も言うことはできません。  (2015/08/21)


第四章 血税を食べるバカ <書き出し>

 私たちは生きていく上で、社会から様々な恩恵を受けています。蛇口を捻れば清潔な水が出ますし、トイレでレバーを押すだけで、汚水が家の中から流れていきます。夜になっても、スイッチ一つで電灯が灯ります。道路は整備されていますし、急な病気には救急車がやってきます。
 こうしたことはすべて税金で成り立っています。今あるインフラは私たちの父や祖父たちが納めてくれた税金で作られたものです。そして現在を生きる私たちの税金も同じように社会を築いていくうえで必要なものです。
 ところが、その税金を食い物にして貪っているとんでもない奴らがいます。これは「バカ」というよりも、「寄生虫」と呼ぶべき存在かもしれません。

 1 生活保護を悪用する人たち
  生活保護費の振込
 二〇一五年十一月、大阪市西成区のコンビニ店に強盗が入りましたが、店員が非常ボタンを押したため警察が駆けつけ、六十五歳の無職男が現行犯逮捕されました。
 年末にかけてコンビニや牛丼店などの深夜営業をしている店舗が狙われるケースが増えてきます。十分な注意が必要です。しかし、今回この項であえて取り上げるのは強盗事件がテーマではありません。いまの日本の社会福祉制度に一言あるからです。
 今回の犯人は無職でしたが、生活するにはお金が必要です。いままでどうやって生きてきたのでしょうか。実はこの男はずっと生活保護費を受給していたのです。ところが、今月はその生活保護費を酒とパチンコで使い果たしてしまい、あろうことかコンビニ強盗を思い立つたといいます。
 生活保護費は大阪市の場合、口座振込では月末、手渡しでは月初めに支給されるといいますから、残り数日分か足りなくなったようです。この男は単純な計算もできないのでしょう。
 ところで支給方法として口座振込は妥当なのでしょうか。一度申請が受理されると毎月待っているだけで黙っていても口座に保護費が入金されるとなったら、誰でもその権利を失いたくなくなると思います。また、使い道のチェックがなければこの男のように酒やバクチに浪費する者もでてくるでしょう。
 失業保険の場合は月に一回、職業安定所に出向き、対面で就職活動状況を報告しなければ支給されません。顔を合わせての報告ですから、ウソもつきにくくなりますし、毎月の出頭が面倒くさいので早く仕事を見つけようと努力もします。
 それに比べて受給者の利便性を考えてか、行政側の手間を省くためかどちらかはわかりませんが、生活保護の受給はハードルが低すぎます。今回の事件があった大阪市は全国でも有数の「生活保護受給者天国」と言われています。他の地域に比べて申請が通りやすいと評判になり各地から受給希望者が流入してきました。大阪市は審査を厳格化するとともに、現在の支給状況も適正かどうか精査する必要があると思います。そうでなければ総支給金額がますます増え続け、そのうち制度自体が破綻し、本当に必要とする人たちに支給できなくなってしまいます。  (2015/12/04)


第五章 公務員の楽園<書き出し>

  税金を貪り食っている輩の中には、「自らの行為が犯罪である」という意識のない者もいます。それは「公務員」です。役所や官庁は民間会社ではないので、自らは一円も稼ぐことはありません。彼らの活動の資金はすべて国民が働いて納めた税金です。
 にもかかわらず、まるで天から降ってくるお金と勘違いして、ジャブジャブと使い放題の役人は日本中にいます。そういう「バカ」を役所から一掃できれば、日本は素晴らしい国になるでしょうが、おそらく私か生きている間は無理でしょう。そして私の孫の時代になっても、彼らは消えてなくならないでしょう。

 1 役人と書いてバカと読む
  愚かな官僚
 東京オリンピック・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の問題で、東京都と文科省が揉めているそうです(この記事が書かれたのは二〇一五年六月)。
 揉めているのは金の問題らしいので、外野がどうこう言えることではありませんが、日本人としては情けない気持ちがします。国家的プロジェクトに、なぜ都と文科省(国)が手に手をとって協力できないのでしょうか。
 新聞や週刊誌によれば、このままではオリンピックまでに競技場が完成しないといいます。文科省も東京都も、お互いに「完成しないと困るだろう。世界に恥を晒したくなければ、譲歩しろ」と、我を通そうとするのは目に見えています。
 舛添要一知事(当時)は文科省のことを「責任を取らない日本帝国陸軍と同じ」と言いましたが、現場で働く人だちから見れば、「お前もその参謀本部の一人だろう」という気持ちでしょう。
 帝国陸海軍の話が出たので言いますと、日本は大本営や司令部がむちゃくちゃな作戦をしてきても、第一線で戦う兵隊が必死に頑張ってやってきました。上層部の愚かな作戦や命令のせいで兵隊たちがどれだけ悲惨な目に遭ったかしれません。いや、前線の兵隊の頑張りによって、無謀な作戦が成功したケースがどれだけあるか。
 今回の国立競技場も、上が相当ごちゃごちゃになっても最終的には開会式までには完成するでしょう。しかし、それは末端の現場で働く人たちの驚異的な頑張りによってなされるのです。そして完成したら、上の者たちが手柄を奪い合うことでしょう。うんざりです。  (2015/06/15)

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