安倍晋三“最後の肉声”

阿比留さんの、安倍晋三元首相が暗殺され亡くなったことで日本の政治は羅針盤とエンジンを失い漂流し続けている、との指摘は全くその通りだと思います。

安倍晋三“最後の肉声”

 阿比留さんは、はじめにで『憲政史上、最長の政権を担った安倍晋三元首相が街頭演説中に凶弾に倒れたあの日から間もなく2年となり、三回忌を迎える。この間、日本の政治は羅針盤とエンジンを失い、漂流し続けている。何より、蹉跌があっても前へ前へと進む明るさがどこかへ消えてしまった。安倍氏という一人の政治家が不帰の客となったことで、日本社会全体が不安定化し、荒涼としてきた感がぬぐえない。』と書き始めています。
 全くその通りだと思うと同時に、何故安倍総理が暗殺されてしまったのだろうという無念さが消えることはありません。
 また山上単独犯行説に疑問を呈し、真相の解明を求める意見は少なくありません。

 安倍総理暗殺事件にまつわる主な不審点として次のようなことが言われています。
 1:遺体から致命傷となった銃弾が消えてしまったにもかかわらず、警察は深く調べることもなく捜査を打ち切った。
 2:3ヵ所の銃創の中には、壇上に立つ被害者を低い位置から撃った凶漢によるものとは別に、逆方向の高い位置から右前頚部に着弾したものがあったが、この単独犯では有り得ない解剖所見を警察は無視し、事実を握り潰した。
 3:政府要人暗殺という重大事件であるにもかかわらず、警察による現場検証は事件の5日後まで行なわれなかった。
 4:狙撃犯とされる男はその場で取り押えられ警察の管理下に置かれたけれど、動機や事実関係がほとんど明らかにされていないばかりか、2年過ぎたのに公判も開かれていない。
 

 阿比留瑠比さんの「安倍晋三“最後の肉声”」を紹介するために、以下に目次と目を留めた項目をコピペさせていただきます。
 2024年の米大統領選は「ほぼトラ」状況になって、日本にトランプと渡り合える首相となれる政治家が居るのだろうかという不安を抱いているのでトランプ飼いならした「猛獣外交」の極意をコピペさせてもらいました。
 興味が湧いて、他も読んでみたいと思ったら、本書を手にしていただければと思います。

安倍晋三“最後の肉声” 阿比留瑠比



  アマゾンで購入


目次

 はじめに 1

 第1章 「闘う政治家」安倍音三の実像 9
不安だらけの日本に希望と勇気の種をまき続けた人 10
日本で不必要な制度や法律ができないよう体を張った「防波堤」 20
匍匐前進も厭わず 持ち前のユーモアと前向きさを武器に 30
「保守派」インフレ時代に放った本物の輝き 40
悪化する持病と去り際の美学 50

 第2章 世界が刮目した防衛・外交のレガシー 63
日本人に覚醒迫った「核共有発言」の真意 64
トランプ飼いならした「猛獣外交」の極意 74
祖国を後世に残す「防衛国債」論の合理性 84
「戦後レジーム」脱した対中韓外交の戦略 94
安倍語録で振り返る外交交渉の知られざる内幕 104

 第3章 幼稚化する野党・メディア・世論 115
安倍晋三のエネルギーを消耗させた空気の正体 116
期待外れに終わった野田元首相の胆力不足 126
国会の不毛すぎるロングラン喜劇 136
被災地でカレーを食べた安倍晋三と山本太郎、一緒にするな! 146
国民に乏しい「政治家を育てる」発想と姿勢 156

 第4章 岸田文雄首相と「腰抜け」自民党に喝! 167
強化された日米同盟の遺産をもっと活用せよ 168
改憲を掲げるわりに全く足りない熱量 178
LGBT法案で自民党保守派を潰した岸田首相 188
生臭い人権擁護法案とLGBT法の点と線 198
スキャンダルと戦わない岸田首相の無気力感 208
国民に嫌われても「大宰相」になれる条件 218

 あとがき 228

本書は雑誌「正論」で2018(平成30)年9月号から連載中の「政界なんだかなあ」を元に再構成しています。各項目の文頭に掲載号を明記。肩書などは当時のものです。  


トランプ飼いならした「猛獣外交」の極意      (2023年1月)

 米国のトランプ前大統領が2022(令和4)年11月14日、予想された通り24年11月の大統領選に出馬すると表明した。民主党の、パイテン政権の煮え切らない姿勢に飽き飽きした日本の保守層の間にも、期待する声は少なくない。
 トランプ氏は出馬表明の際、安倍晋三元首相にも言及した。
 「日本とは悪条件の貿易協定を見直さねばならなかった。交渉相手だった安倍元総理は、実に優秀で、非常に惜しい人物だった。彼は私の素晴らしい友人で、日本を心から愛していた」 
(テレビ朝日のニュースより)
 確かに2人の極めて良好な関係は日米関係の強化に大きく寄与した。もともと政治経験も外交経験もなかったトランプ氏にとって、安倍氏は国際社会への窓口であり、相談役だった。先進7力国首脳会議(G7サミット)など国際会議の場で、トランプ氏がたびたび「シンゾーはどう思うか」「シンゾーの言うことには従う」と述べていたのは有名な話である。
 安倍氏もまた、トランプ氏の脳裏に中国の脅威や拉致問題の重大性を刻みつけることで、米国の外交政策、方針に大きな影響を及ぼすことができた。米国が歴史上初めて、日本の外交戦略である「自由で聞かれたインド・太平洋」構想を自国の戦略として採用したのも、その一環である。
 日本にとって恵まれた幸福な時代だったといえるが、それはたまたま安倍氏とトランプ氏のケミストリーが合ったからといった単純な話ではない。そうした部分もあったにしろ、より重要なのは、安倍氏が努力し、トランプ氏の信頼を勝ち取ったことだろう。
 安倍氏はある時、私にこう語っていた。
 「政治とは、与えられた条件の中で最善を尽くすことだ」
 米国の大統領が誰であれ、気が合おうと合うまいと、日本の首相は良好な関係を築かないといけない。唯一の同盟国である米国との関係にひびが入ると、中国、北朝鮮、ロシア、韓国と周辺国はそれに付け込んでくる。
 日本の民主党政権時代、本人以外は誰も理解できない鳩山由紀夫首相の「東アジア共同体構想」や、小沢一郎幹事長の「日米中正三角形論」によって米国に不信感を持たれた結果はどうなったか。
 最重視していたはずの中韓に侮られ、関係は最悪となり、韓国の大統領が竹島(島根県隠岐の島町)に上陸し、ロシア大統領が北方領土を訪れる事態が生じた。鳩山氏が「米国一辺倒」を忌避した結果、反対に日本は東アジアでも相手にされなくなっていった。
 当時、米国勤務経験のある外務省幹部は嘆いていた。
 「米国から見た日韓は、以前は日本のほうがはるかに重視されていたが、今では同等か韓国のほうがむしろ存在感がある」

  オバマ大統領との冷めた関係を克服
 そんな民主党から政権を奪還した安倍氏がまず向き合った米国の大統領は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題などで迷走する日本に失望を覚えていたオバマ氏だった。
 さらに、オバマ氏はもともと他者との人間関係が希薄な性質であるうえ、日米双方の左派・リベラル勢力から「安倍氏は危険なナショナリスト」「歴史修正主義者」などといったレッテルを貼られており、安倍氏に冷淡だった。
 13年2月に安倍氏が再登板後初めて訪米した際には、オバマ氏はビジネスライクに徹し、自身が主催する昼食会で、日米両国要人がワイングラスを傾ける中、オバマ氏のテーブルの上にはミネラルウォーターが1本置かれているだけだった。
 「初めの頃、オバマ氏は私を腫れ物のように扱っていた」
 安倍氏は後にこう振り返った。それどころか、同年12月に安倍氏が靖国神社を参拝すると、オバマ政権は「失望」すら表明した。
 そんなオバマ氏がやがて安倍氏を頼り、ハグするようになり、現職の米大統領として初めて被爆地・広島を訪問するに至ったのは、安倍氏が安全保障面と歴史問題で一歩一歩実績を積み重ね、信頼を深めていったからだろう。
 ケミストリーという意味では、むしろオバマ氏とは全然合わなかった。安倍氏のオバマ氏個人への評価も「何ということはない人」と決して高くはなかった。
 オバマ氏だろうとトランプ氏だろうと誰だろうと、日本の首相として、日本の国益増進のためには米大統領とは上手くやっていくべきだと考え、それを実践しただけなのである。
 安倍氏にしたところで、在日米軍の駐留経費の大幅負担増を強く求めたり、日本車の対米輸出のあり方を問題視したりする言動で注目を集めていたトランプ氏が大統領候補者の一人だった頃には、当然ながら警戒していた。
 16年4月には、私にこう話していた。 「トランプ氏は、本当にやばいな。米国はどうするんだろうね。本当に大変なことになるよ」  同年5月の伊勢志摩サミット時には、トランプ氏に対するオバマ氏の反応について語った。
 「オバマ氏は、トランプ氏がああいう言動をしていることについて、神経質になっている。(トランプ氏が日本や韓国は核兵器を持つべきだと述べていることを受けて)核廃絶に熱心になっている」
 とはいえ、新たな事態が生じたら、いたずらに狼狽するのではなく、それを利用し、日本の国益に転じようとするのが安倍氏の真骨頂である。


  対中政策転換に導いたトランプタワー会談の内幕
 マスコミや評論家は、何をするか言うか分からないトランプ氏の登場に「日本にこれこれを求められたらどうしよう」と頭を抱えていたが、安倍氏は違った。
 トランプ氏が大統領選に勝利した同年11月9日夜、日米同盟のあり方の見直しを要求された場合について安倍氏に聞くと、即座に答えた。
 「そうなれば、それを日本の対米自立のきっかけにすればいいんだ。できるだけ早い時期に会って、日米同盟の米国にとっての意義などを教えないといけない。それと、トランプ氏は保護貿易的なことを言っているけど、それがどれだけ自分(米国)の首を絞めることになるかもね
 そして翌10日に初の電話会談を行い、トランプ氏と会談するため米ニューヨークヘと向かう直前の16日には、「オバマ氏とせっかくここまで関係をつくったのに、またやり直しですね」と問う私に笑いながら語る余裕をみせた。
 「だけど、トランプ氏のほうが早く関係をつくれるんじやないかな。彼は、かなり強いリーダーが好きみたいで、幸い私も『強権』と言われているからね。電話会談の時も私にかなりシンパシーを感じている様子だった」
 トランプタワーでの会談では、話題の大半を台頭する中国の脅威と問題点に費やしたといい、安倍氏は手応えを感じていた。国際電話で様子を聞くと、高揚した声が返ってきた。
 「非常にうまくいった。これは大丈夫だなと、うまくやっていけると感じた。選挙中の彼とは別だということだね。信頼関係を絶対築けると確信した」
 実際、この会談が米国の対中政策転換を大きく促し、対中融和路線から対立も制裁も辞さない現在の厳しい姿勢に変わる第一歩だった。安倍氏がつくった日本、米国、オーストラリア、インドの4力国による協力の枠組み「クワッド」とともに、歴史的に評価されるべき実績だと一言えよう。

  米国の北朝鮮政策も大きく変化
 一方、安倍氏による大統領就任前のトランプ氏との会談に関しては「駆け付けて会うのは、植民地の代表が『よく当選しましたね』って行くようなもの」(ジャーナリストの鳥越俊太郎氏)という類いの批判も出た。だが、安倍氏としては世界の首脳に先駆けて会うことで、トランプ氏に「日本」と「安倍」の存在感を強烈に印象付けたかったのだろう。
 トランプ氏も、この会談について11月18日のツイッター(現在はX)で、こう発信した。
 「安倍晋三首相が私の自宅に立ち寄り、素晴らしい友情が芽生えたのは楽しいことでした」
 この時の訪問について、トランプ氏は17年1月の安倍氏との経済問題と安全保障が主題の電話会談でも感謝を伝えてきた。安倍氏は語った。
 「私にとても気を遣っていて、『(娘の)イバンカが非常に安倍さんのことを評価していた。滅多に人のことをほめない娘なのに』とも話していたよ」
 トランプ氏が安倍氏の主張によく耳を傾けたことで、米国の対北朝鮮政策も大きく変わった。
 オバマ政権が戦略的放置と称して、北朝鮮に「のびのびさせていた」(安倍氏)結果、北朝鮮の核・ミサイル開発は進み続けた。
 拉致問題に関しても、オバマ政権までの米国は人権問題として一応、重視するふりはするものの、その実は核・ミサイル問題解決のためには邪魔な問題という本音が透けて見えた。それが、安倍氏がトランプ氏にいかに拉致問題が日本と自分にとって重要かを繰り返し説いた結果、どうなったか。米国の描く北朝鮮の拉致・ミサイル問題解決のプロセスの中に拉致問題が組み込まれたのである。これはバイデン政権になっても変わらなかった。
 「トランプ氏は拉致問題に関してハートがあった」
 安倍氏は後にこう振り返った。この年9月の米ニューヨークでの国連総会演説で、トランプ氏が拉致被害者の横田めぐみさんを念頭に、「13歳の日本人の少女を拉致した」と、北朝鮮を厳しく批判したのもその表れの一つだろう。
 国連総会後、帰国した安倍氏に同月、核実験を実施した北朝鮮に対するトランプ氏の反応を問うと、赤裸々にこう語った。
 「勘違いしている人もいるようだけど、北朝鮮が米国に先制攻撃をすることは100%ない。金正恩総書記はすごく臆病で、絶対にやらない。私もトランプ氏にそう説明したが、グアムの方向にはミサイルを撃たない。本格的な挑発はしないんだ。一方で、米国が来年、北朝鮮を先制攻撃する可能性が出ている」
 この頃、朝鮮半島をめぐる情勢は、それほど緊迫していたのである。後に米国は北朝鮮の中枢を狙う斬首作戦だけでなく、核攻撃も視野に入れていたと分かった。翌年、自衛隊トップの河野克俊統合幕僚長と話した際に、「あの頃は40年の自衛隊人生で一番緊張していた」と吐露していたが、当然だった。
 ともあれ、首脳同士の信頼関係があってこそ、そうした機微情報も伝えられ、意見交換も交わされるのだろうと感じた。

  「シンソーだから日米関係はいい」
 トランプ氏が18年と翌19年の金氏との米朝首脳会談で、繰り返し金氏に拉致問題解決に向けた安倍氏の考えを説明し、安倍に会うよう促したのも安倍氏との絆あっての話である。
 そうでなければ、貴重な会談時間を使って、自国の問題でもない拉致問題解決を働きかけたりはしない。そして国内の食糧不足に苦慮する金氏も、この時に聞いた拉致問題解決への道筋とその後の日本からの経済支援について忘れることはあるまい。
 「惜しかった。会談でトランプ氏が最後に譲らず、強硬にもう一押ししていれば、拉致問題は解決に向かっていたのではないか」
 安倍氏は振り返った。ただ、安倍政権時代のトランプ氏が日本にとって望ましい大統領だったからといって、再登板を果たしたトランプ氏が、日本のために以前同様の役割を果たすとは限らない。
 
トランプ氏に日本の考えを呑ませるため、安倍氏も相手をまずほめるところから会談を始めたり、大切な課題は一つに絞ったりと工夫を凝らして付き合ってきた。
 17年11月の日米首脳会談では、トランプ氏はこんなことを言い放った。
 「(日本の首相が)シンゾーだから日米関係はいいんだ。シンゾーだから、私は日本のためにやる。もしシンゾーじゃなければ、私は(他国と自由に契約を結ぶ)フリーエージェントになる」
 会談に同席していた関係者らは、みんな笑顔で聞いていたが、半分は本音だと感じたという。安倍氏のような「猛獣使い」は、そうそう現れはしない。



  アマゾンで購入

PAGE TOP