日本人が知らない最先端の世界史
福井義高さんの「日本人が知らない最先端の世界史」を紹介するために、以下に目次や目を留めた項目をコピペさせていただきます。
興味が湧いて、他も読んでみたいと思ったら、本書を手にしていただければと思います。
きちんとした歴史認識をもつことの重要性を痛感します。戦勝国史観に惑わされることなく、「修正主義者」のレッテルを貼られないよう注意しながら・・・。
福井義高さんの「日本人が知らない最先端の世界史」を紹介するために、以下に目次や目を留めた項目をコピペさせていただきます。
興味が湧いて、他も読んでみたいと思ったら、本書を手にしていただければと思います。
目次
まえがき 3
I 「歴史修正主義」論争の正体
第1章 日独同罪論をめぐって
日独同罪論の落とし穴 16 /
日本の過去と比較すべきは 20
第2章 歴史認識は処罰の対象となるのか
ヘイトスピーチの規制をめぐる各国の議論 26 /
ホロコースト否定論者を対象とするドイツ 29 /
批判を許さないニュルンベルク裁判史観の絶対化 32 /
冷戦後の思想統制強化 36 /
なぜソルジェニーツィンが批判の対象なのか 39
第3章 なぜ「歴史修正主義」は非難されるのか
二度の大戦と歴史認識 43 /
第一次大戦中の英米によるプロパガンダ 44 /
第一次大戦後の修正主義 48 /
第二次大戦後の修正主義 51 /
なぜ、第二次大戦後の修正主義がタブーとなったのか 54 /
第一次大戦責任論の度重なる逆転 58
第4章 チャンドラ・ボースは英雄か傀儡か?
歴史戦争の同盟国 61 /
ボース再考 63 /
英軍の主力を占めていたインド兵 66 /
日本艇に乗り移った時のボースの感慨 70 /
ボースの人柄に魅せられた東條首相 72 /
インパール作戦は、はたして愚かな戦いだったのか 75 /
日本の敗戦後に実現した「チェロ・デリー」 78 /
インド独立をもたらした聖者と戦士 81
Ⅱ 「コミンテルンの陰謀」説の真偽
第5章 「コミンテルンの陰謀」は存在したか
「コミンテルン陰謀史観」をめぐる議論 86 /
レーニンの世界戦略を示した「基本準則」 89 /
後継者スターリンの雌伏期 93 /
スターリンに翻弄される日本 95 /
スターリンの高笑い 100 /
戦争挑発に舵を切るスターリン 102 /
ノモンハン・張鼓峰におけるスターリンの謀略 107 /
ヒトラーをけしかけるスターリン 112 /
スターリンの大誤算 118
第6章 過去を直視しない人々
過去を直視しないのは誰か 120 /
戦後正統史観とスターリンの呪縛 125 /
反共リベラルが正統だった時代 129 /
反共主義に対抗する「修正主義者」の台頭 133
第7章 ヴェノナの衝撃
ヴェノナ文書とは。そして何がわかったか 138 /
原爆をめぐるスパイ活動 143 /
米国政府高官のスパイ活動 148 /
日本との関わりIアメラジア事件 153 /
歴史再検討を迫るヴェノナ文書 155
第8章 それでも「スパイ」と認めない人々
「ザ・クエスチョン」 159 /
開き直る「修正主義者」たち 161 /
「ヴァシリエフーノート」の公開が意味するもの 165 /
「ホワイトHスパイ」説を、どうしても認めない人々 168 /
動機純粋論によるホワイト擁護 173 /
ホワイトによる対日工作の実像 175 /
「ヴァシリエフーノート」を前にした反・反共主義者たち 180 /
研究者の保身の論理と心理 182
Ⅲ 大衆と知識人
第9章 大衆と知識人は、どちらが危険か
欧州における反EU・反移民勢力の躍進 186 /
穏当な「極右」政党の主張 190 /
実行がともなわない既成の保守政治家 194 /
好戦的なのは大衆ではない 195 /
自己欺隔に鼻けたエリート 198 /
秘密投票は自由の最後の砦 201
第10章 ナチスを支持したのは、はたして誰か
丸山真男の日本ファシズム論 205 /下層中流階層に罪をなすりっける人々 210
/では、どの階層がヒトラーを支持したのか 212 /エリートも労働者も支持した国民政党 216
/なぜ「下層中流階級」に対する偏見が広まったのか 220
Ⅳ 中国共産党政権誕生の真実
第11章 毛沢東はスターリンの傀儡だった
明らかにされたスターリンの決定的貢献 224 /
中国に「国民国家」という概念は存在しない 227 /
佐々木更三の謝罪発言に対する毛沢東の返答 230 /
「兄」スターリンと「弟」毛沢東 233
第12章 中国共産党の「救世主」だった日本
なぜ日本が「救世主」なのか 237 /
青息吐息の共産党 240 /
西安事件から支那事変へ 245 /
近衛首相の決定的失策 250 /
汪兆銘・南京政府の闇 254
第13章 中国共産党政権の誕生に果たした米国の役割
策士、策に溺れた英国 258 /
米政権内で暗躍するソ連スパイ 261 /
縄張り争いに明け暮れる米政府 264 /
中国共産党と米陸軍との不思議な「蜜月」 266 /
日米ソ合作の中国共産党王朝 268
第14章これでいいのか、日本の近現代史研究
日本の近現代史研究者への「ザ・クエスチョン」 273 /
政治的・軍事的才能に溢れたトロツキー? 274 /
トロツキーがレーニンの後継者だったら? 277 /
ホロドモールはただの凶作? 281 /
戦前日本共産党は反戦平和の使徒? 284 /
「美しい」物語を否定する「醜い」事実 288
主な参照文献 304
まえがき<一部>
日本の近現代史をめぐる議論が、あまりにも日本中心であること。これが本書執筆の動機である。
比較的自立した歴史を歩んできた江戸時代までと異なり、明治以降の日本は、帝国主義全盛の世界に放り込まれ、日露戦争以降、列強の一員と認められるようにはなったものの、米英ソのような本物の大帝国には遠く及ばない、二流の地域大国に過ぎなかった。そのなかで我が国は、唯一の超大国のジュニア・パートナーあるいは「属国」である今日とは違い、独立独歩のプレーヤーとして行動し、結果的に大敗北を喫したのである。
にもかかわらず、歴史学者を含め知識人の間で根強い、戦前日本暗黒史観によれば、軍国日本が東アジアの平和な秩序を掻き乱し、米英中ソを振り回した挙げ句、最終的に武力制覇を意図したゆえ世界大戦となったとされる。悪役ながら、まるで世界史が、少なくともアジアでは、日本を中心に展開したかのようである。
『続「甘え」の構造』で土居健郎が指摘しているように、敗戦後の日本人を深いところで衝き動かしていたのは、「まず記憶に新しい戦争体験の恐怖であり、次に同じことが二度と繰返し起きてほしくないという恐怖であり、また新たに日本に君臨することになった連合軍司令部に対する恐怖で」あった。暗黒史観は「実は何かに対する迎合であり、それも結局は恐怖の然らしむるところ」であって、「今も、敗戦のショックによるストレスから国民が完全には自由になっていない」。
暗黒史観に対抗する側も、過去の日本への評価が違うだけで、日本中心の議論に終始しがちであることには変わりない。そのため、歴史認識をめぐる議論に、残念ながら日本の来し方に決定的影響をあたえた当時の世界政治に関する海外の研究成果が、あまり反映されない状態が続いている。
本書では、敗戦がもたらした言葉にならない恐怖を克服し、歴史認識の鎖国状態を打破すべく、近代の世界史を考えるうえで、重要なしかし我が国では見過ごされがちな論点を、日本に直接関係ないものも含め、取り上げていく。
<中略>
平成二十八年六月吉日 両親に
文庫版刊行に寄せて
文庫化に際し、若干の訂正・字句修正のほか、近年の政治状況に関する記述を単行本刊行後の変化を反映したものに改めたけれども、内容には一切手を加えていない。ただし、あとがきに代えて、本書及び続編『日本人が知らない最先端の「世界史」2』のもととなった月刊誌『正論』連載のなかから、「まえがき」でも述べた歴史認識の鎖国状態に関連する単行本未収録の一編を加筆修正のうえ、第14章として加えた。
令和二年七月吉日 福井義高
なぜソルジェニーツィンが批判の対象なのか
安倍晋三首相に対して、欧米メディア等からしばしば「修正主義者」(revisionist)いう批判が行なわれる(たとえば、『フィナンシャル・タイムス』2014年2月10日付)。この多くの日本人にとっては中立的表現に見える「修正主義」(revisionism)という言葉で、欧米知識人がまず思い浮かべるのは、今日の米国主導世界秩序のイデオロギー的基礎である第二次大戦「正史」への異議、特にホロコースト否定論である。
ゴットフリードは次のように言っている。
「『修正』(revision)とは、ポスト・マルクス主義左翼にとって政治的に正しくない(politically incorrect)と、つまり『ファシスト』的思考の表現を意味する符牒(code woed)である。これは必ずしもホロコーストの通説に挑戦する人々に対してのみ用いられるのではなく、『ファシスト』の脅威に対する我々の抵抗を弱めかねない歴史的叙述を行なう人々にも向けられる」。
そのためフランスでは、ソ連の犯罪を強調したり、対独降伏後にナチス・ドイツに協力したヴィシー政権に抵抗しなかった当時の庶民への非難に疑問を呈したりするだけで「修正主義者」というレッテルが貼られる。
アレクサンドル・ソルジェニーツィンですら、ソ連の悪を際立たせることで、比類なき絶対悪であるナチズムという見方を危うくするとして、「修正主義者」にされてしまう。ポスト・マルクス主義左翼のこうした主張は、事実に基づいた論難ではなく、「政治的神学的評価なのだ」。
かつてソ連共産党の圧政に抵抗する自由の闘士として、欧米で英雄視されたソルジェニーツィンは、冷戦が終わると、多文化主義と真っ向から対立する、そのロシア民族主義ゆえ、逆に欧米知識人の批判の対象となった。とくに、ナチスが反「ユダヤ共産主義」(judischer Bolschewismus)を旗印としたことから、欧米ではタブーともいえるユダヤ人とロシア革命の関係に言及した『ユダヤ人とともに二百年』公刊は、彼の欧米での声望に大きなダメージを与えた。
第二次大戦正(聖)戦史観にとって、あくまで悪の主役はドイツであり、日本やイタリアは脇役に過ぎない。しかし、ヘイトスピーチ規制を推進する欧米「反ファシスト」多文化共生論者は、日本での歴史認識見直しの動きが、彼らの言論支配にとって、蟻の一穴になりかねないとして、日本国内のリベラルという名のポスト・マルクス主義左翼と協調して、今後さらなる圧迫を加えてくることが予想される。
実際、国連人種差別撤廃委員会は、定例の国別報告で2014年8月、ヘイトスピーチ規制導入に加え、慰安婦問題に関して、「こうした事件の誹謗や否定の試みを断罪する(Condemn any attempts at defamation or denial of such events)」よう日本政府に勧告している。
ただし、この委員会は、国連の下部機関というより、国際条約に基づく諮問機関に過ぎない。したがって、こうした勧告を不必要に重大視すると、かえって規制論者の術中に陥ることになる。慰安婦に関する日韓合意を批判した2016年3月の国連女子差別撤廃委員会最終見解についても、同じことがいえる。ちなみに、日本同様、人種差別撤廃委員会にヘイトスピーチ規制導入等を勧告された米国では、ほとんど話題にならなかった。
今後、日本の精神的独立と直結した歴史認識見直しを抑圧しかねないヘイトスピーチ規制に反対するうえで求められるのは、罵り合いではなく、事実に基づく冷静な議論である。規制論者に言質を与えることになる中韓国民を侮辱する言動は厳に慎み、そのような挙に出る人々とは一線を画さねばならない。そうしなければ、欧州のように、事実への言及さえ封じられる時代が来るかもしれないのである。