信濃川水系にある水力発電施設を紹介しています。


【 千手発電所パネル展(その2)1期〜5期工事 】

国鉄(現JR東)の信濃川発電所は第1期〜第5期工事によって、その全体系が完成した。
2009年11月1日に開催された「千手発電所一般公開」では当時の写真等をパネルで紹介していたが、興味深いものであった。

第1期工事(昭和6年〜14年)宮中ダム・宮中取水口、水路トンネル1条、千手発電所(発電機3台)

第2期工事(昭和15年〜19年)水路トンネル1条、千手発電所(発電機2台)

第3期工事(昭和19年3月〜昭和29年11月)山本山調整池、水路トンネル(15.7Km 1条)、小千谷発電所(発電機3台)

第4期工事(昭和32年6月〜昭和44年12月)水路トンネル(15.7Km 1条)、小千谷発電所(発電機2台)

第5期工事(昭和60年8月〜平成2年6月)新宮中取水口、水路トンネル(26.7Km)、新山本山調整池、新小千谷発電所(発電機2台)浅河原分水渠、源藤山沢水路橋、新真人沢水路橋

 


信濃川発電所の概要図。



ここから下は第1期・第2期工事に関連するものです。

心壁盛土締固め中(昭和10年10月):人力締固めと2tローラ。



工事中の宮中取水ダム(昭和12年7月)



宮中取水ダムと沈砂池(新宮中取水口も完成している時代のもの)
画像左下側が信濃川上流方向、画像右上側が信濃川下流方向、宮中ダムの取水口から分岐している画像中央部の水面は沈砂池です。



建設中の千手発電所(昭和12年8月)



建設中の、千手発電所第2期調圧水槽(昭和16年8月)
調圧水槽は圧力ずい道と水圧鉄管の間にあり、水車の停止等、流速の急変で水圧に変化が生じた場合、構造物を破壊する恐れがある水撃圧の軽減をはかるためのものです。



放水工事(昭和17年7月):コンクリート打込み状況。



上流側栗石散布(昭和19年12月)



ここから下は第3期工事に関連するものです。
戦後の輸送量増加や鉄道電化の進展に伴い、小千谷発電所の建設が決定されました。当時の電力需要の急激な増加と限られた資金を有効に活用するため、第3期、第4期の2段階施工とすることになりました。
小千谷発電所は千手発電所で使用された水を再利用するため、第3期工事では、渇水時水量を対象とし、1条の水路トンネルと山本山調整池を建設しました。途中第二次世界大戦のため工事を一時中止せざるを得ませんでしたが、昭和26年に発電(7.5万kw)を開始することが出来ました。

施工中の山本山調整池(昭和28年頃)



インバートコンクリート施工(昭和25年12月)
大規模工事で初めて、コンクリートの配合設計を容積配合から重量配合に切り替えました。コンクリートの品質管理に力を入れた時期でした。



土木の本格的機械化施工(昭和28年)
国鉄・東京操機工事事務所の機械化土木作業隊による直轄施工を行ないました。



水圧管施工中(昭和25年11月)



放水路と小千谷発電所(昭和25年6月)



完成した真人沢水路橋



小千谷方向から見た、施工中の真人沢水路橋(昭和25年10月)



ここから下は第4期工事についてです。
第3期工事に引き続き、平水時水量を対象として水路を1条新設し、小千谷発電所の発電能力を増強して、3期工事分合わせて最大12.5万kwとなりました。資金難で一時工事が中止されましたが、工事再開時に、残りの未着工の水路ずい道掘削工事(水路橋を含む)で、当時の国鉄としては初めての共同請負方式による請負契約を実施しました。

5号管施工中
水圧鉄管は、4・5号管の水槽側の20mは3期工事で完成し、4号管は昭和37年に完成、昭和43年から予備機として稼動しました。5号管は、昭和43年の発注で、戦後20年が経過し、鋼材の品質向上および溶接効率が良くなったため、新たな設計基準を作り、その結果、旧管と比較して総重量を約20%減ずることが出来ました。



井筒工:クラムシェルによる掘削



上半先進用アーチスライドセントル



第4期真人沢水路橋3径間アーチ部施工中



第4期真人沢水路橋完成(手前)、向こう側は3期工事で竣工した水路橋。



ここから下は第5期工事に関するものです。
電車編成の長大化、冷暖房の強化など旅客サービスの向上等により増加している電力需要に対応するため、新たな自営電力を計画することとなりました。これは信濃川発電所再開発計画として新たに150?/sの取水許可を受け、宮中地区に新たに取水口を設けて小千谷まで導水し、新設した新小千谷発電所で20万kwの出力を得るもの(追加分の取水は一部浅河原調整池にも分水し活用)でした。工事は平成2年に完成し、6月から発電を開始しました。

水路トンネルから浅河原調整池に分水するトンネルの分岐点です。



右下が新小千谷発電所で、左側が小千谷発電所です。



源藤山沢水路橋、鉛直リブ施工中。



完成した源藤山沢水路橋
全長101mの背割式RC2径間固定アーチ橋で、水路断面が幅6.5m、深さ7.32mのストラット併合U型断面の開水路です。
水路断面は、S.L.より下半分がトンネル断面と同じ曲線形状の3・4期の真人沢水路橋と異なり、トンネル流下断面とほぼ同断面積を有する矩形断面として設計、施工上の不利をなくして、トンネルとの10mの取り付け区間を設けて水頭損失を少なくしました。



新真人山沢水路橋の橋脚施工中。



新真人山沢水路橋の鋼桁現地組み立て工事。



新真人山沢水路橋の桁架設工事。



新真人沢水路橋
全長221mの4径間鋼連続U型断面橋りょう(水路断面幅6.5m、深さ7.32m)です。主要部材には耐候性鋼板が使用されており、安定錆の生成を期待しにくい水路下面と内面にはタールエポキシ樹脂系塗料で塗装しています。
橋脚の高さが55m(2P)で、通水時の荷重が43kN/mにも達する日本では前例のない大規模な水路橋であるため、動的解析を行い、その結果を設計に反映しています。



水路トンネルは新宮中取水口から浅河原分水渠までの第1トンネル(7.8Km)と、浅河原分水渠から新山本山調整池までの第2トンネル(18.9Km)に分かれています。
全長のうち23.6KmはNATM(New Austrian Tunnelling Method)、残る3.1Km(第2トンネル新山本山調整池側)はECL工法(Extruded Concrete Lining 直打ちコンクリートライニング工法)を採用しました。山岳トンネルでECL工法を採用したのは当工事がわが国最初です。



標準断面図(NATM工法)



水路トンネル工事(NATM工法)



ロックボルト施工中



標準断面図(ECL工法)



水路トンネル(ECL工法)



ECL工法の切羽状況



ECL工法の概要



新山本山調整池の堤体掘削(左岸側)

新山本山調整池は、貯水容量320万立方メートルの中央遮断壁型フィルダムです。
首都圏の朝夕のラッシュ時間帯に発生する電力需要のピークに対応するため、夜間の発電停止時に満水にし、朝夕に約4時間ずつ放流して新小千谷発電所での発電に使用します。国内のフィルダムでは珍しく曲線部を持っています。
調整池の施工は池敷および周辺の土取場を掘削して得られる段丘砂礫および粘性土を材料とし、30t級コンパクタドーザ(コア部)などを使用して締固めました。
基礎岩盤は、第三期鮮新世〜第四期洪積世前期の魚沼層群の堆積岩で、堆積年代が比較的新しく固結度が低いのが特徴です。そのため、基礎処理として、低圧で精度の高い透水試験と岩盤を破壊しないようなグラウト注入が出来る管理体制をとって慎重に施工しました。



新山本山調整池のフィルタ転圧状況



新山本山調整池の着岩材転圧状況



新山本山調整池のコア転圧状況



新山本山調整池に設置された取水口とサイフォン式余水吐



新山本山調整池施工中の空撮



左上:新山本山調整池、右:山本山調整池、山本山調整池の下:小千谷発電所、小千谷発電所の左:新小千谷発電所



水圧鉄管施工中
水圧鉄管は、調整池から新小千谷発電所に、有効落差107mで最大220立方メートル/sを導水するための鉄管です。
BAU-ST溶接工法採用による当時国内最大口径水圧鉄管(直径7.7m)でした。



放水路施工中
放水路は、発電所から信濃川の放水口までを直線とし、河川との放水角度を34度としました。放水路床版高は、河川への放流流速を3m/s以下とするため、ドラフトチューブ放水口から25/100勾配をとり、計画河床に取り付けました。



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