「薄給(はっきゅう)」とは、「安(い)月給」のこと(三省堂国語辞典)である。安月給が入った給料袋は薄いからそのような言い方がされるのかもしれない。 給料っていうのは不思議なもので「私は高い給料をもらっている」「私の会社は給料が良い」という話はあまり聞くことが無い。例えば、飲み屋などで仲間といろんな話をする中で給料の話になったりすると、多くの場合次のような会話になる。 A:「お前の会社は、結構給料いいんだって?。」 B:「いやあ、全然駄目だよ。うちらの業界では安い方だよね。お前の会社こそ良いって言う噂じゃないか。」 A:「とんでもない、安月給だよ。噂なんていい加減なものさ。」 こんなふうに、話の相手が「良いだろう」と言うのに対して「そんなこと無い、安いよ」というのが一般的なのである。日本人はあくまで謙遜するのであって、「ああ、うちの会社の給料はいいよ」と言うことは無いと思われる。このことは給料だけのことではなく、暮らし向きや持ち物、さらには子供の成績まで、同様な傾向があるといえる。つまり、相手に関連したことは誉める一方で、「うちの○○は良い」とは言わないのである。 反対に「お前の会社は安月給だろう」とか「お宅は生活が苦しいんでしょ」とか「あなたの時計は安物ですよね」とか「息子さんは、あなたに比べると出来が悪いですね」などとは言わないものである。 しかし、よほど親しい中だったり、とても正直な人は思っていることをはっきりと言うかもしれないが・・。 そんな一般的な了解があると思っている私にとって、笑うに笑えない話を聞かせてもらったことがある。それは数年ぶりに会ったある人とある人の会話であって、要約するとつぎのようになるそうである。 A:「Bさん、あなたは今も○×会社に勤めているの?。」 B:「はい、もう○年になります。」 A:「そうなの、私はおたくの会社の社長とは同級生だし倅も知っているんだよね。倅は、社長が出来が悪くないわりにはできがよくないんだよね。」 B:「そうなんですか。」 A:「給料安いだろ、おたくの会社は市内でも給料が安いので有名なんだよ。」 B:「はぁ・・・、そうなんですか・・・。」 これは「Bさんを親しく感じたAさんの冗談(しかし数年ぶりに会ったということである)」なのかそれとも「Aさんが正直だった」のか・・・。いずれにしても社交的な会話には無いパターンである。と同時にBさんの胸中を察すると笑えない話である。 |