【 菖蒲湯 】


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 言うまでも無く5月5日は端午の節句、 鯉のぼりが皐月の空を泳いでいる。
 鯉のぼりだけではなく、武者絵などの幟も目にするところであるが、近年その数は少なくなっているのだろうか・・・。
 想像だが、少子化のせいだけではなく、雛壇のような室内用の段飾りがそれに取って代わっているケースもあるのではないだろうか?。

 ところで、私が子供の頃は今ほど鯉のぼりや武者絵幟を目にすることは無かった。理由は・・・、要すれば今ほど豊かではなかったわけで、私もそういったものには無縁であった。

 ただし、菖蒲湯には入れてもらった。
 菖蒲だけでなく、菖蒲と蓬を束ねたものが湯船に浮いていて、子供であったがその香りの良さに感激したものであった。
 入浴の前には、じいちゃんから「菖蒲で体をこするよう」に言いつけられていたから、少し痛いのを我慢しながらそのようにしたものである。

 さて、菖蒲湯を出て浴衣に着替えると、じいちゃんが待っていた。
 じいちゃんは私の浴衣の帯に菖蒲を結びつけて、その葉を扱くような所作をするのであった。もちろん、それが何なのかは分からなかったが、菖蒲が震えその振動がお腹に伝わって、ちょっとくすぐったかったのを覚えている。

 祖父は信心深い人であったが、思えば、それは祖父が孫の健康と安全を祈る儀式であった。
 ひいては、当時のことであったから、合わせて家の弥栄を祈ったのであろう。

 今、自分自身の有り様を振り返った時、祖父には顔向けできないと・・・・。

 
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